劇場公開日 2021年9月17日

「前作に引けを取らない大傑作」マスカレード・ナイト アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0前作に引けを取らない大傑作

2021年9月17日
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鑑賞方法:映画館

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原作小説は三部作になっていて、物語の時系列で並べれば「マスカレード・イブ」「マスカレード・ホテル」「マスカレード・ナイト」の順になる。本作は 2019 年公開の映画「マスカレード・ホテル」の続編である。本作の原作小説は 2017 年に刊行されているので、前作映画の公開時から続編への期待は高かった。主要キャストをほとんど継承した作りは、前作のクランクアップから間もなく制作がスタートしたことを窺わせる。前作を見ておいた方が楽しめる作りになっている。

原作の緻密な物語の構成は、改変してしまうと台無しになる恐れがあったが、ほぼ原作が踏襲された脚本は期待以上であり、観客をも欺く作り方は実に見事であった。ホテルマンとしての心得と刑事の心得の蘊蓄をちりばめた作り方は前作同様であるが、物語の流れを邪魔せず、香り付けに功を奏していた。また、犯人の人物設定に関する原作からの改変は、むしろ原作を上回るものであったことに感服させられた。一つだけ残念だったのは、前作の終結部のように私服姿の尚美と新田の姿がたっぷりと眺められなかった点である。

役者は主役の二人をはじめそれぞれ適役であり、特に小日向文世、沢村一樹、麻生久美子の役作りは素晴らしく、石川恋の美しさもひときわ目を引いた。中村アンの出演シーンの意味が良くわからなかったが、非常に印象的であった。また、前作でウォーリーを探せ状態だった特別出演の明石家さんまの今作での出演ぶりには声を出して笑ってしまった。ただ、氏原役は石黒賢より陰のある俳優の方が良かったような気もする。一方、勝村政信と木村佳乃の使い方はちょっと勿体なかったと思った。

音楽の佐藤直紀も前作からの継続で、これまた実に見事な音楽を付けていた。メインテーマのワルツの高貴さは言うまでもなく、様々なシーンで音楽がシーンに寄り添い、雰囲気を上げるのに抜群の効果を発揮していた。特に隣のビルにプロジェクションマッピングが映されるシーンでの音楽は深く胸を打つもので、非常に感動的であった。

演出は前作に引き続き見事なものであった。この監督は「HERO」などでもそうだが、人物の美しさを見せるのに傑出している印象を受ける。画面での人物配置などにも非常に神経の行き届いた演出が好ましい。また、プロジェクションマッピングのシーンなど、小説を読んだだけでは想像するしかないシーンを、こちらの想像を上回るクォリティで見せてくれた手腕にも感服させられた。前作をご覧になってから鑑賞されるようにお勧めしたい。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。

アラカン