「キャラクターの細部を描ききったリブート版」映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021 一さんの映画レビュー(感想・評価)
キャラクターの細部を描ききったリブート版
時代に合わせた描き方をし、キャラクターの解像度を上げた素晴らしいリブート版だと感じました。
ジェンダー平等や細部の配慮、パロディ、テンポが時代に合わせて変更が加えられています。
原作・大山ドラ版にあった、作中の男だから女だからというようなセリフは変えられており、政府の要職や自由同盟のメンバーにも女性の姿があります。またクライマックスの戦闘シーンでは人を巻き込まないことが言及され、現代ならではの配慮がなされています。
大山ドラ版ではオープニングから多くのSFパロディが入っていますが、最近はパロディ=パクリという批判があがることがあり、どうしても必要なものを除き、あからさまなものはなくなり、アノニマス性の高いものに置き換えられています。
テンポも、動きの激しいコマやコミカルなカット、ストーリー展開を組み合わせてテンポのよいつくりになっています。
テンポのよさでは宝島も印象的でしたが、あちらはひみつ道具の説明を省いたり頻繁なカットの切り替えで、乱暴さのあるテンポのよさでしたが、今作は制作陣のバランス感覚のよさが感じられます。
原作・大山ドラ版と比べて、キャラクターの解像度も上がっています。
スネ夫やパピの心の葛藤が今まではあまり見えてこなかったのが、セリフの追加や新キャラクターが効果的に使われ、
パピの背負っているものの重さや葛藤、不器用さがしっかりと描かれている。
スネ夫にしても悩みや葛藤の描き方が細かくなっている。
それらを土台にして仲間の大切さが鮮明に描かれている。
いままでのドラえもんでも友情や仲間の大切さは描かれていましたが、今作では丁寧なキャラクターの描写やキャラクター同士の交流を通して次第に大切さがカタチになっていき、パピの演説でもってハッキリとした解が示される。ドラえもんの映画で、別れのシーン以外で泣いたのは初めてです。
また以前の作品ではPCIAのキャラクターはメインキャラクターのドラコルルを含め、どこか感情に乏しい印象でした。
今作では細かいセリフの追加(流星のシーンでのつぶやきなど)や暑いのを我慢するシーン、処刑のシーンなど血の通った人間なんだなあと実感させられる。
PCIAに限らず自由同盟やピリカ星の市民も同様です。
あえて残念なところをあげるとすれば、ロコロコと劇中歌でしょうか。
ロコロコは喋りだしたら止まらないキャラで、今作でもそれは健在なのですが、作品のテンポがよいため描き方が足りていないかなという印象を受けました。
劇中歌も同様で、テンポがよく明るい作品になっているので、やや歌が渋く違和感を覚えました。
月面探査記や宇宙開拓史のような明るい歌にすればよかったのかと言われれば、歌で表そうとしているテーマできには落ち着いた歌のほうが合っていると思うので、悩ましいところです。
映画ドラえもんは毎年、果敢に新しいことに挑戦している印象を受けます。
新しい映像技術を取り入れたり、今作のように描こうとしているものの解像度を上げるだけでなく、「ドラえもん」そのものの解釈や映画の方向性などにも切り込んでいる。
宝島やSBMのようにストーリー本位の作品よりも、のび太の恐竜2006や日本誕生、今作のように「ドラえもん」を丁寧に掘り下げ、キャラクター本位に描いた作品が、往来のファンとしては嬉しく思います。