劇場公開日 2021年4月9日

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「ただの笑えるホラーと侮るなかれ!」ザ・スイッチ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 ただの笑えるホラーと侮るなかれ!

2025年8月31日
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鑑賞方法:映画館

ヴィンス・ヴォーンが好きなのである。気がついたら好きだったので、理由はわからない。
ヴィンスが連続殺人鬼で、しかも中身が女子高生と入れ替わると聞いたら、何はともあれ馳せ参じたい!この際、映画が面白いとか面白くないとか、そんなことはどうでもいい!
それくらい好きなのである。

で、結局どうだったの?と言えばメチャメチャ面白かったから万事OKだ!
中身が女のコのおっさんを演じているヴィンスを観に行ったはずだけど、画面に映っていたのは間違いなく今作の主人公・ミリーだった。
「なんか主役の女の子ヴィンス・ヴォーンに似てるなぁ」と思ったくらい、ミリーだった。
言ってる事がわけわからんが、それくらいヴィンスの演技は最高だった。
巨漢おっさん界の至宝、それがヴィン・スヴォーンなのである!

内容は大体あらすじ通りで、殺人鬼と入れ替わってしまったミリーの奮闘ぶりが絶妙にコミカルに描かれる。
ミリーだけじゃなく、親友のナイラやジョッシュも真剣だからこそ笑わせてくれる。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、追い込まれたジョッシュが放った咄嗟の告白には、同席していた観客全員が爆笑の渦に飲み込まれた。すげー久しぶりに皆で笑ったな!
こんなに映画館に(恐怖以外の)一体感が生まれるホラーとは何なのだろう。さすが「金は出すけど口は出さない」ジェイソン・ブラム。やってくれるぜ。

正直な話、ホラーは好きじゃない。チキンなので怖いのはイヤなのである。ビクッ!ってなるし。シートからちょっと浮くくらいビクッ!!ってなるし。
しかし、クリストファー・ランドンのホラーは青春映画で、親子映画で、笑いもすればホロリともする、豊かで楽しいホラーなのである。
そして、今の時代の流れを大きく汲み取り、多様性の中で「自分とは何者なのか」を内省する映画なのである。

今作も、ミリーは家族の問題に悩み、自分の弱さに悩み、もがきながら毎日を過ごしている。
そんなミリーが巨漢の殺人鬼と入れ替わってしまった事で、全く違った扱いを受ける事になる。
警察から隠れ、周りの人物は悲鳴を上げて逃げ惑う。その一方で普段とはかけ離れた強大なパワーに酔いしれる部分もある。

そしてそして、入れ替わった方のブッチャーは、見た目はまんまミリーなのに、堂々とした佇まいだ。堂々とした殺人鬼って何?って思うけど、とにかく自信満々にゴーイングマイウェイ。
「ブサイク」とか言われてたハズなのに、道行くミリー型ブッチャーに男子は釘付け。クールでホットなビッチ扱いである。中身おっさんだけどな!
顔とかスタイルは変わってないハズなのに、自信一つ、他人の目なんか気にしない不遜さ一つでこの様変わり。

これは、相反する二つの事実を観客に突きつける。
見た目が変わると周囲の扱いが変わる、という事実。見た目が同じでも中身が変われば周囲の扱いが変わる、という事実。
どちらも真であり、どちらにも説得力があり、そしてどちらも目の前で確かに起こっていることなのだ。
B級ホラーと侮るなかれ。中々に含蓄に富んだメッセージを急に投げかけてくるなんて反則もイイとこである。

見た目に左右される部分と、本質的に持っているもの。暴力として発散される強さと、苦しい時も他人を思いやれる強さ。
同じようでいて、少し異なる様々な要素から、その人物の「自己」は決定される。
入れ替わりという究極の客観視を通じて、ミリーは自分と向き合うことになる。それは彼女と周囲の間にある愛を確認する体験となり、ミリーは成長するのである。

最先端の継続可能な多様性社会をベースにした青春成長物語をメインディッシュに、甘酸っぱいラブ・ストーリーソース、超刺激的な殺人鬼のスパイシーシーズニングトッピング。
そんな不思議なマリアージュを「ウンチクとかどうでもいいから!メッチャ笑うし」と純粋に楽しめる映画。
あなたをあなたと認めてくれる誰かと、「ザ・スイッチ」で大いに笑って来ると良いよ!

つとみ
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