「ピュアな視線の怖さ」誰かの花 JC-LORDさんの映画レビュー(感想・評価)
ピュアな視線の怖さ
公式オンライン試写会で視聴(2021/11/15)
交通事故、作業現場、事件現場に巻き込まれての事故。さまざまな事故現場で命を落とす被害者も出る場合がある。
毎日のニュース報道で知る一つひとつの出来事に、加害者・被害者を判断して一件落着。どこか一つの出来事の結末を見た感覚に落ち着きたいのかもしれない。
本作の奥田裕介監督は、そうした納得したい一種の安堵感に「そう簡単なことではないのかもしれない」と、気づきを与えてくれる。
団地に引っ越して来たばかりのある一家の大黒柱である夫が、ある日、ベランダから落ちてきた鉢植えが頭を直撃し、亡くなった。その日は風の強い日でベランダの腰壁の際に置いてあった鉢植えが運悪く頭を直撃した事故なのか。あるいは、誰かが意図的に落とした事件なのか…。縁故の線はないのだろう。警察は事故と判断する。だが、ベランダの部屋の住人は、周囲からの痛い視線にさらされる。
ベランダの部屋の住人の隣に住む認知症の老人の手袋が、当日、土で汚れていたのを訪ヘルパーの若い女性が思い出す。老人の息子は、自室のベランダにつながる台所のドアが事故当日開いていて、ベランダ用のサンダルが土で汚れていたのを思い出す。二人の心に「もしかしたら…」という疑念が心によぎる。
事故で亡くなった夫の一人息子は、時折り自室のベランダから階下の出入り口や団地内を眺めている。大人たちの会話にも想いを巡らすような雰囲気。いつしかそのピュアな視線は、大人たちが取り繕うとしている事柄を見つめているように痛く刺さってくる。
サスペンスフルに展開する事故後の日常とそれぞれの家庭と家族の想い。
一つの事故が明らかになることが、どのような意味で重要なのか。さまざまな立場の視線が痛くもあり、想いを吞み込んだ温もりのようになる。
子どもの相太役・太田流星の立ち居振る舞いとピュアな視線が心に残る。人の心の奥深くをのぞかせてくれる佳作でした。