「深夜のメキシコシティを駆け巡る闇営業の救急隊に密着取材した脅威的なテンションのドキュメンタリー」ミッドナイト・ファミリー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
深夜のメキシコシティを駆け巡る闇営業の救急隊に密着取材した脅威的なテンションのドキュメンタリー
先日ネタにしたメキシコ映画の『ミッドナイト・ファミリー』。今上映している映画で気になってるのが軽く10本はあるので、一番観に行きにくい作品を敢えて選びました。何気に渋谷、生憎の雨天ということもあってか空いてます。
人口900万人に対して公共の救急車が45台もない、すなわち20万人に1台あるかないかという絶望的に医療インフラが脆弱な大都市メキシコシティでは闇営業の私設救急隊が活躍している。そんな稼業を営む弱冠17歳の救命士フアン率いるオチョア一家の仕事ぶりを密着取材したドキュメンタリー。
闇営業なのでその仕事ぶりはゲリラ的。警察無線を傍受して事故現場を特定するや爆走して現場に急行。ライバルの同業者達とサイレンを鳴らしながら派手なカーチェイスをする様はヘタなアクション映画よりもハイテンション。しかし現場にいるのは様々な事情を持ったワケありの人々。儲けがあっても警察にたかられるわ、必要経費を差し引いた分け前は僅か。なぜこんな割りに合わない仕事が成立し、彼らがわざわざ危険を冒してまで走り回るのかは断片的に語られるフアンの愚痴と彼らの住むボロアパートには不似合いなある装飾品によって示される。この小さな家族の日々の営みが複雑な事情を抱えたメキシコという国の内情を写す鏡になっていることに気づかされます。
仕事の合間に年上の彼女ジェシカに電話しては苦労話を延々聞かせるフアン、担架を道路に敷いて仮眠を取る父フェルナンド、なぜか現場についてくる救急隊の金庫番を任されている末っ子の小学生ホセ・・・みんなとにかくチャーミング。特にぽっちゃり体型のホセ君が空腹の余り怒りを爆発させるところがもうキュートでしょうがないです。そんな彼らを見つめる映像がどれも美しいところも印象的。ドキュメンタリーとは思えないほどの至近距離で彼らの表情を捉えていて、恐らくは長い年月をかけて彼らと信頼関係を築いたからこそ切り取ることのできた映像ではないかと思います。
しかし何より彼らが扱っているのは人の命。エンドロールに浮かぶ一行のクレジットにずっしり重い現実が刻まれているのが衝撃的でした。