「ドキュメンタリーの概念を刷新し期待値を引き上げる画期作」ミッドナイト・ファミリー 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ドキュメンタリーの概念を刷新し期待値を引き上げる画期作
ドキュメンタリーなのにスリリングで劇的。本作を観た後では、アーカイブ映像や写真にナレーションをかぶせたり、関係者たちへのインタビューで構成したりといった定番のドキュメンタリー手法が古臭く退屈に感じられそうだ。テロップによる文字情報も必要最小限で、ライブ感覚あふれる映像で闇救急車を走らせるオチョア一家を追いかけ、その素顔と日常にぐいぐい迫る。
大学で映画を学び卒業後たまたま友人について行った先のメキシコシティでオチョア家に出会った米国人監督の強運も大したものだが、闇稼業でどうにかぎりぎりの暮らしをしている家族に信頼されて懐に入り込む人間的魅力もうかがわせる。メキシコの首都で公営の救急車が圧倒的に不足する状況をビジネスチャンスとする私設救急車の営為は、福祉国家と呼ばれる先進国に暮らす人の目には“必要悪”と映るかもしれないが、そんな安全地帯からの判断や批評が及ばない場所、善悪の彼岸にあるようにも思えてくる。
4階から転落した娘を搬送する際に助手席に同乗した顔面蒼白の母親を正面からとらえた映像は、監督が撮影後に使うのを断念しかけたが、結局彼女の了解をとりつけて本編に採用したという。あの母親がどんな思いで使用を許可したのか、考えるたびに胸が詰まる。
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