岬のマヨイガのレビュー・感想・評価
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被災地の復興と心のドラマを抑制されたトーンで描く
東日本大震災から10年の節目に、被災地を舞台にしたアニメ3作品を製作する「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の1作です(残り2作は、テレビアニメ「バクテン!!」、12月3日公開の「フラ・フラダンス」)。
ファーストカットはひび割れたコンクリートのアップ(だったはず)で、凄いところからはじめるなと思いました。震災の爪あとが残る岩手県を舞台に、「のんのんびより」シリーズを手がける川面真也らしい和やかなテイストで主人公の少女ユイの暮らしを描きつつ、余裕のなくなった人間が引きおこす嫌な部分(見ていて本当にイラっとするのが凄い)をピンポイントで挟むことで、ゆっくりと物語のテーマを浮かびあがらせていきます。全体的に抑制されたトーンで描かれているところに、児童文学が原作の本作を描く覚悟を感じました。
ユイ役の芦田愛菜(「海獣の子供」)、キワさん役の大竹しのぶ(「漁港の肉子ちゃん」)の近作とはまた違った見事な声の演技も心に残りました。
心温まる作品
震災後の親や家族を失った人たちが、幻の家を経てもう一度家族となっていく物語。
遠野物語をベースにしていて、妖怪や神々も出てきます。
土地も人々の心も段々と解けていくのが良いですね。
全体的にふわっとした、とても心温まる作品でした。
ひとつのアニメ作品としては…
羊文学が好きで、マヨイガという曲が主題歌になっている映画があるらしいという事から入って、丁度amazonプライムにあったので鑑賞してみました。
被災地復興プロジェクトの一環という事で、その意味では意義のある映画だとは思いますが、ひとつのアニメ作品として楽しめたかといえば、正直なところ微妙でした。
見ず知らずの子供を孫だという事ですんなり引き取る事が本当に出来るのかどうかは判りませんが、そこは目をつぶるとして、ものすごく意味ありげなおばあさんが、あまり活躍しなかったり、ラスボスがそれほど強力ではなかったりと、ちょっと拍子抜けした感じでした。
実は、おばあさんは若い頃に巫女をしていて、その時からの因縁で、とかの隠し設定があるのかといえばそういう訳でもなく、普通な感じで終わった印象です。
元が絵本とのことなので、あまりにも複雑だったり残虐だったりの設定はしづらかったのかもしれませんが、個人的には少し不完全燃焼感を感じました。
大竹しのぶさんの声優としての能力はすごいと思いましたが、演技派であるはずの芦田愛菜さんもあまり印象に残らず、残念な感じでした。
岩手の沿岸県民にはたまらない作品
大槌町は「風の電話」に続き、いい映画作品の舞台となっているなあ、と隣町出身としては軽く嫉妬w とても面白い映画でした。映画というよりも新しい昔話というか童話というか、素敵な物語が生まれた瞬間に立ち会えたような気がしました。吉田玲子さん、さすがの脚本です。
見慣れた場所ばかりで、「ああ、これはマストだ」とか、「この川べりで爺さんが畑を(無許可で)耕してたなあ」とか、「蓬莱島と北山崎のコラボかな?」とか遠野駅とかお約束的にカッパ淵だったり、釜石駅がちらりと登場したり、そこからバスで大槌へ動く様とか、狐舞ってあったっけ?どうせなら虎舞にすれば実際とクロスオーバーになるのになあ。などと要らんことが頭の中を過ぎりながら鑑賞。
なお、狐崎は架空の地名ということですが、大槌町の隣、釜石市には狐崎城跡というものがありますので、狐崎という地名から釜石市が舞台か?地元民でも知ってる人少ないのにマニアックだなあとも思ってました。
キワばあちゃん、井上ひさしのお母さん、井上マスさんがモデルかな? マスさんもいろいろと各地を転々として苦労なされ、とても思慮深い方でしたのでダブって見えました。
おばあちゃんは何者。
おばあちゃんが少女2人に優しくするストーリーと思いきや、
妖怪勢揃いで蛇の妖怪を倒すという展開。
であるが、全体的な派手さはなくてどちらかというと淡々としていて、少女2人の心の変化にフォーカスが当てられていて、応援したくなってくる。
見どころはきっと蛇とのシーンかもしれないけど、あっさりしているので、そうなるよね、といった感じ。
感情移入がそこまでできなかったのもあるのでこの点数。
傷ついた心をもてなしてくれる
…マヨイガ
という言葉を知らなかった
意味も
震災で心に傷をもった…ひより
父親から逃げたかった…ゆい
どうして…わたしだけが
そんなひよりとゆいのところに
キワさんが声をかけてくれた
三人の共同生活がはじまる
…キワさんは
不思議な力をもっていた
ふしぎっと(妖怪)と話ができる
…魔(化け物)
遠野に伝わる民話を丁寧に
用いてかっぱや狛犬お神楽の
重要性など。
いまはお神楽は数少なく
継承するのも大変でしょうね
神様に
祈った時代
心のよりどころ
でも一番は人との繋がり
でしょうか
登場人物はじめ風景
画のカメラワーク
光の当たらない暗いトーンも
すごくバランスの良い作品です
ちょっと気になったところは
大竹さんの声かな
他は満点です
余談…
時代と共に
その土地の風習とか
言い伝えとかも忘れ去られて
いくのでしょうね
しばし、民話の世界観に酔う・・
マヨイガって「迷い蛾」、蛾の話かと思ったら遠野物語にでてくる「迷い家」のことでした。訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家のことらしい。
原作者の柏葉幸子さんはジブリ作品にも影響を与えたファンタジー作家ということだから折り紙つき、岩手のご出身だから3.11では随分と心を痛められたのでしょうか、震災と遠野に伝わる民話を結びつけ岩手県の狐崎の古民家を舞台に訳ありの少女たちと謎のおばあさんの奇妙な共同生活を描きます。
日本の妖怪ものでは「ゲゲの鬼太郎」が思い浮かぶが妖怪戦争では無く、地に根付いたお稲荷さんの狐、神社の狛犬やお地蔵さんなど日本ならではの悪霊払いの対処法はハリポタとは違った面白さを再認識、日本ってファンタジーの宝庫だったのですね。
声優さんではありませんが天才子役と謳われた芦田愛菜ちゃんと大竹しのぶさんの息もぴったりで物語に引き込まれました。ただ、家出少女と心無い父親という設定は頂けませんね、劇中で誤解を解いて欲しかった・・。
震災で住む場所を失った2人の少女が不思議なおばあさんに引き取られて...
震災で住む場所を失った2人の少女が不思議なおばあさんに引き取られて岬の古民家で暮らし始める。
皆良い人ばかりで、まったりと話が進んでいくが、突如「アガメ」なる化け物の登場で緊迫した展開に。
おばあさんが化け物を倒すために犠牲になるのかと心配したが、助かってよかった。
また、「今、自分にできることをやるしかない」というセリフは日常生活においても当てはまることで、元気づけられた。
絵作りの大切さ
肉子ちゃんに続き、大竹しのぶさんの存在感には脱帽
芦田愛菜さんは、海獣の子のときほどは良さを感じることができませんでした。
お話の筋やテーマも良いと思いましたが、ビジュアルがついてきていないのが残念
やはり、映像作品は絵作りがついてこないと気持ちが入らないのが残念
災害に見舞われた皆さんの様々な思いを投影していて、10年後の今、考えさせられること多い作品でした
ちょうど、すずめの戸締まりを観たあとでしたが、あの作品の中であの震災はどういう位置づけだぅたのだろうか?と、考えさせられました、人知れず災害を食い止めるヒーローの、舞台設定のように扱われていて残念な気がします
その点については、この作品は真正面から穏やかに語られていたと感じます
人が住まなくなるのは
赤目の仕業という設定が良かった。
赤目にも伝えたい事があったのだろうとお婆ちゃんが祀るところに、共存の意味を考えされられた。
サンドイッチマンをキャスティングしてるのも良かった。
そして上手なのが流石。
スッと息が出来て、安心して暮らせる場所
人は皆、心を許せる人と安心して暮らしたいと思っています。
不幸にも《安心出来る環境》にない2人の少女。
17歳のユイと8歳のひよりも事情は違うけれど、心休まる居場所を
求めていました。
震災後の岩手県を舞台にした
柏葉幸子の野間児童文学賞を受賞した同名の児童文学をアニメ映画化した
ファンタジー・ドラマ。
題名の「マヨイガ」は岩手県に伝わる、迷い込んだ人をもてなしてくれる
伝説の家のことです。
居場所を失った2人の少女が妖怪たちの集う不思議な古民家「マヨイガ」の
生活で、傷ついた心を癒し、辛い過去を乗り越えていく。
その姿を妖怪たち(ふしぎっと=不思議っ人?)と繰り広げる大冒険と共に
描きます。
ユイ(声・芦田愛菜)はシングルファザーの父親が苛立ちから、
しつけで終始ユイは叱られてばかり。
家庭に居場所がありません。
《家に居たら自分が壊れてしまう》
家出した列車の中で震災に遭い避難所で暮らしていました。
ひより(声・粟野咲莉)は交通事故で両親を亡くして、
伯父夫妻に引き取られましたが、伯父夫妻もまた津波に流されてしまいます。
ひよりはあまりのことに声を失います。
そして孤独に避難所に身を寄せていると、ふらりと現れたキワさんと言う老婆が
「2人はわしの孫じゃ!!」
と、2人を引き取って、岬の家に連れて行ってくれます。
その家が「マヨイガ」でした。
ひよりとユイは暖かい食事、フカフカの布団、熱いお風呂。
安心してお腹いっぱい食事を摂りキワ(声・大竹しのぶ)さんの世話で
生き返ったように幸せでした。
このアニメの特色は東北地方に伝わる民話を元に、さまざまな「ふしぎっと」が
登場します。
「ふしぎっと」は優しい妖怪のこと。
遠野へ船を押して連れてってくれる河童(カッパ)だったり。
怖いアガメ(多分、赤眼)だったり。
遠野の「マヨイガ」にいる座敷童(ざしきわらし)の少女。
田中のお地蔵さん。
狛犬・・・の「ふしぎっと」とキワ婆ちゃんは心を通わせる能力の持ち主。
ファンタジー色も民話性、郷土愛も備えた、
「不思議昔話」風の面白いアニメ映画です。
映画はユイとひよりの寄るべない2人にキワ婆ちゃんが
「生きて行く場所」を提供してくれて、ユイとひよりはなんとか
「生きる力」を貰うのです。
震災で傷ついた人と町の復興。
決して簡単ではない「心の復興」
時間は掛かるけれど、助け合って歩み出すしかありません。
アニメのクライマックスはアガメの海ヘビ(不吉な魔物)を
キワ婆ちゃん、ユイとひよりが力を合わせて退治するシーン。
キワ婆ちゃんはマキリ(小刀)
ひよりは御神楽の鳴り物の横笛。
ユイは破魔矢を射って、巨大な敵を倒す。
人間の生活を根幹から壊した震災。
それでも人々は助け合って生きていく。
ユイは実の父よりキワ婆ちゃんが好き。
ひよりはユイを奪いにきた父親を見て、必死で
「ひーねーちゃん、行かないで!!」と叫ぶ。
声を取り戻したのだ。
ユイもひよりも狐崎の「マヨイガ」が故郷だと思う。
血のつながらないユイ、ひより、キワ婆ちゃん。
実の家族以上の温もりがある。
「家族」を広い意味で捉えると「平和」に繋がる。
何で私だけ
誰にでもある負の感情。
不幸は比べられない。
それをどうやって乗り越えるのか、克服できるのか。
キャラクターの絵柄は風景に対して軽いタッチ。
最初はアスファルトの雑草のシーンから。細かい描写もあり、リアルだと思っていた物語は
マヨイガに着いた時点でファンタジー要素が強くなる。
夏目友人帳?? からのラストは犬夜叉。
笛はなんとなく予想はついたけど。
観て良かったと思える作品。
居場所を失う感覚
この映画のテーマは「居場所を失うこと」だと思う。
そういえば、私にも「ここには私の居場所が無い」と感じたことがある。
たとえば、小学生のころに何かの委員会に参加したとき、
そこに出来上がっていた人間関係に入り込む余地が無くて、
悲しい気持ちになったことを思い出した。
もちろんそんなそぶりは見せなかったけれど、それはとても悲しかった。
私の感じた「居場所のない悲しみ」と、ユイやひよりの悲しみでは
悲しみの深さが大きく違うのだけれど、種類は同じなのだと思う。
そしてそれは、東北大震災で居場所を失った悲しみにもつながっている。
そして、ユイやひよりを受け入れたマヨイガやキワや河童たち妖怪という、
東北の物語は、全てを受け入れる力があるのだろう。
そうして力強く回復してゆく被災地の姿を、少しだけ身近に感じられる、
そういう作品なのだと感じました。
優しい話でした
民話や妖怪がつくる世界観が素敵。
マヨイガ、おばあちゃん付き添いの元行ってみたい。
登場人物が基本的に優しく、あたたかい気持ちになれる。(ユイのお父さんは偽物だったわけだけど、本物はどうしているのだろうか)
おばあちゃんは一体何者なのか、とか、色々気になる部分は残った。そういう家系なのかな。
辛さも苦しさ抱えて、前を向いて歩くためには。
Amazonプライムにて視聴
元は児童文学を設定調整してアニメ映画化した作品。
細かい伏線等はないので、多少のネタバレは記載してしまっております。ご了承ください。
震災や事故、家庭環境の不和で居場所を失った少女たちと、それを迎え入れる謎のババア。
そして、少し不思議な世界との交流を描いた作品。
基本の映像は丁寧で綺麗ですが、特筆するほどではないです。
人物描写が薄めなので、アクションやキャラクター演技は弱いです。
背景美術はかなり精細な描写です。東北の美しい空気感を味わえます。
昔語りのシーンの構図・カット割り・映像表現が異常にレベルが高くなるのは何なんでしょう……。
震災被災跡地を軽い描写のみ写すのは、多くを語りすぎない事による配慮とも言える。(ショッキングな映像は流せば良いと云うものではない)
マヨイガの表現は良くも悪くも日本的な表現。Jホラー的だるまさんがころんだ方式。
ミラベルと魔法だらけの家(ディズニー)までは行かなくても、ハウルの動く城的な可変的表現があっても良かったかも。
前半は、軽めの説明から、3人が共同生活するまでを、ゆっくり描く。
中盤から、少しずつ生活を前へ進み始める話。
後半からは、ふしぎっとと洞穴に封印されたアガメの話へと進んでいく。
この作品は、「苦しみを抱える中、共に支え合い、前を向いていく事の大切さ」を描いていると思う。
悲しみは多くとも、それを抱え続ける事は、負のものを生む。
悲しみを乗り越える時に、向かい合う必要はない。時には別の方向へ逃げる事も必要。
それは、今の生活から離れた所にあるかも知れない。
それでも前を向いていれば、そこには新しい世界が広がるのかも知れない。
そんな事を感じさせる、良い童話だった。
丁寧な語り口なので、安心して見られる作品だ。
逆に毒を薄めに作ってあるので、琴線に触れるまでは至り辛くなっているのも悩ましい。
それなりにまとまった良作ですので、お暇なら視聴しても良いかと。
最後に声優さんについてですが、
主人公のユイ役の芦田愛菜さんは、圧倒的に上手いです。その辺の声優さんよりも上手いかも……。怪獣の子供の時も思ったけど、演技の鬼。独白のシーンの声の震え方が上手すぎて、引くレベル。
キワさん役の大竹しのぶさんは、下手ではないけど序盤違和感がある演技になっています。後半からは慣れのせいか、そこまでは気になりませんが……。
ひより役の三宅希空は、上手いけど普通かなぁ。もう少し一発目はガラガラになってて欲しかったかも……。
カッパ軍団の俳優さん芸人さん方は、キャラ性もあるのでギリセーフ。
東北出身の方も多く、被災地支援の一環である事が大切な作品なので、こちらの方で良いのだろう。
あと、田中のお地蔵様の声が良すぎてウケる。さすが江原さん。
総じて、悪くない配役でした。
俳優声優が苦手でも大丈夫なレベルです。
余談
前から思っていたのだけど、後半から慣れてくるタイプの声優(俳優)さんについて、
こっちが慣れてくるのかと思っていたのだけど、たぶん演技中に上手くなっていっているのだと思う。
今回の大竹しのぶさんなどは、明らかに前半の演技と後半の演技の質が違う。
つまりは、多くの作品では俳優起用の際に、演技指導の時間が足りていないのだと思われる。
演技の中でキャラに慣れていき、結果として後半からキャラが出来上がるのだ。
予算の都合があるかも知れないが、俳優さんを声優起用する際は、長めのスケジュールを確保して、アフレコ・アテレコをして頂きたいと願う。
タメにタメてあの声では・・・
震災に見舞われた海辺の街を舞台に、行き場を失った二人の少女と、その二人に寄りそう不思議な老婆を描く物語。
ファンタジー要素を含んだヒューマンドラマですね。
不幸な生い立ちの少女。二人の心に根ざす「何で私だけ」という負の感情が、老婆と触れ合うことで少しづつほぐれていく様子がとても丁寧に、暖かく描かれています。
そして、その物語に「ふしぎっと」達が上手にアクセントを加えて、物語を盛り上げていきます。
動きはそれ程でもありませんが、キャラは丁寧。特に美術背景は世界観に即してとても良く描かれていて好印象です。
ラストのバトルシーンは少し付け足し感があったのが残念。本来は、その前のシーンをクライマックスにしても良かったように思います。父親(?)に連れ去られそうになるユイを、必死に声を出して守ろうとするひより・・・とても感動的なシチュでした。
ただ、とても残念だったのはこのシーンのひよりの声。
キワさんを演じた大竹しのぶさんも、ユイを演じた芦田愛菜さんも、流石の演技力。本職の声優さんがいないこともあり、違和感を感じることはありませんでした。
しかし、一番大切なシーンで初めて聞くひよりの声は、折角のクライマックスを台無しにしてしまいました。棒読みですし、何より小学2年生に感じられません。一番大切なシーンで、一番大切な声がそれですから、それまでの積み重ねが台無しです。
別に女優さんを使うな・・・とは言いませんが、しっかりとオーディションをして、出来る女優さんを選んで欲しいと思います。
私的評価は4.5・・・のつもりでしたが、4に下げさせて頂きました。
ふしぎっとと私たちのマヨイガ
好きな作品だわ、これ。だって、
東北地方が舞台。私は福島で作品は岩手だが、東北訛りが心地よい。
声の出演に芦田愛菜やサンドウィッチマン。アノ番組かよ!今日は何の“博士ちゃん”!? 大竹しのぶも包容力ある声。
彼らが命を吹き込んだ登場人物たちが織り成す人間模様。人と人の繋がり、悲しみからの再生。支えになってくれる存在、言葉…。何処までも優しく、温かく。
私たちの居場所、家。私たちは“家族”。
美味しそうな料理。これら本当に美味しそう!
心底憧れる穏やかでのんびりとした自然に囲まれた暮らし。美しい映像、音楽。
交流は“人間たち”とだけじゃない。日本の何処かに居ると思わせてくれる。“少し・不思議”。
基の民話や伝承が日本人の心を堪らなくそそる。
まるで『おおかみこどもの雨と雪』×『となりのトトロ』×『まんが日本昔ばなし』のような純日本ファンタジー。
開幕シーン。てっきり勘違いした。
一人の老女と二人の少女。
両親を失い、岩手の田舎の祖母の元へ引き取られ…と、誰だって思うが、実はこれが違う。複雑な訳あり。
17歳のユイ。ある事情から家を出、この地にやって来た。
8歳のひより。両親を事故で亡くし、親戚も震災で亡くす。そのショックで声を出せなくなり…。
震災直後の岩手が舞台。地震や津波の直線的な描写は無いが、生々しい被災跡が残る。
避難所で出会う。身元を聞かれ困っていた時助けてくれたのが、キワさん。
初めて会う自分の孫たち、と。
行き場も身寄りも無いユイとひより。そんなひょんな事からキワさんに引き取られる事に。
キワさんは二人を連れて、海が一望出来る崖の上の古民家へ。
キワさんはここに一人で暮らしているのだが、この古民家、ただの古民家じゃない。
“マヨイガ”。来た者をもてなす不思議な家。岩手県に伝わる伝説。
確かにこの家で暮らすようになってから、不思議な事が。破いた障子が元通り。ちょうどいい湯加減でお風呂が焚かれる。水が飲みたいと言ったら、コップに水が注がれる。氷付きで。お布団も敷いてくれる。そして時々、自分たちに応えるかのような轟音…いや、“声”。
『ハウルの動く城』『ミラベルと魔法だらけの家』など“意思を持った家”はファンタジーの要素の一つだが、やはり私は日本人。一番住んでみたい!
見た目はボロだけど、内装は意外やお洒落で居心地良さそう。
始まった3人の暮らし。
ひよりは悲しく辛い事をこの歳で立て続けに体験してきた。
あるシーンでの本音が胸を打つ。“どうして私だけ? 何も悪い事してないのに…”。
本来ならもっと塞ぎ込んで悲観に暮れてもいい孤独な少々。が、決してそんな顔はせず、健気で純真。元々明るい子なのだ。
複雑なのは寧ろ、ユイの方。
周囲に心を閉ざし、人見知り気味。冷めた目、口調、態度…。時々、皮肉や毒舌も。(ヤバ、マジ…など現代っこで、ちょっとひねくれてもいるけど、許せちゃうのは愛菜ちゃんボイスだから!)
“街の方”に住んでいたユイ。母親が家を出、父親と二人暮らしであったが、その父は威圧的。
“お前の為なんだ”。この言葉、使いようによっては重圧にもなる。
それがどんなに難しい年頃の少女を苦しめるか。母親が出て行った事も、父親との不和も…。
そこから逃げてきた。
そして彼女もまた。“どうして私だけ…?”。
そんは二人に手を差し伸べたキワさん。
作ってくれる美味しそうな料理、優しさに癒される。一つ一つの言葉が諭してくれる。支えてくれる。
“すんぺすんな”。
3人に血の繋がりは無い。赤の他人。
しかし、もはや映画の一つのジャンルとでも言うべき“擬似家族”。私の大好きな『男はつらいよ』もそう。
血の繋がりは欠けがえない。でも時に、血の繋がらない家族の絆は血の繋がる家族以上。
“家族”の姿、在り方を問い掛けてくれる。
前半はこの何気ない暮らし、日常がのんびりゆったりと流れていく。
退屈と感じる人もいるだろうが、私にとってはどれもドストライク!
はぁ、つくづくいいなぁ…。
そして、魅力的な要素がもう一つ。
ある日、お客さんがやって来るという。
さて、どんな人…?
…“人”ではなかった。
何と、河童!
しかもキワさんは、その河童たちと親しげ。
ここは妖怪の住む地…? キワさんも何者…?
足を踏み入れてはならない所に足を踏み入れ、見てはならないものを見てしまったような…。
すんぺすんな。
優しい河童たち。愉快で、勿論きゅうりが好物。ユイが作ったカルボナーラもうまい!うまい!と食べてくれる。暗い事情を抱えるキワさんの“孫たち”を気に掛けてくれる。
彼らの性格はもう、気のいいおじさんたち。
河童だけじゃない。
番犬のような狛犬。
何処からともなく飛んで来たお地蔵様。
3人は遠野へ。キワさんは遠野出身。(ちなみに本作の原作小説は岩手県遠野地方に伝わる民間伝承集“遠野物語”を基にしている)
山奥に別の“マヨイガ”が。まるでお屋敷や旅館のような豪華絢爛さ。料理も大盤振る舞い。一泊してぇ…。マヨイガの“主”なのだろう。
そこに居たのは、各東北地方から集まった妖怪たち。河童は勿論、天狗、雪女、座敷わらし…。
彼らは“ふしぎっと”と呼ばれる世界の妖怪たち。
キワさんは“ふしぎっと”と通じる人間の一人。
この世界に妖怪は居る。でも、むやみに存在を漏らしてはならない。
大抵の人はそう。得体の知れない存在、未知の世界を信じない。敵視する。
きっと昔は、キワさんの他にももっとたくさん“ふしぎっと”と通じる人たちが居たに違いない。
いつしか人は、彼らの存在や世界を信じなくなって、忘れて…。
怖がる事など微塵も無い。すんぺすんな。
彼らやその世界を知る“家族”になりたい…?
うん。なりたい。
“ふしぎっと”の妖怪たちは今、人間たちを心配している。
と言うのも、最近この地で奇怪な事件が起きている。
住人が突然この地を去ったり、死んだ大切な人の姿を見たり…。
思い当たる節は、キワさんが話してくれた民話の中にあった。
人の悲しみ、苦しみ、負の感情を食らう化け物。
蛇のような姿で、大きな赤い目を持つ事から、“アガメ”。
時に人から大切な存在を奪い、その幻すら見せる。
ユイもひよりもある時、このアガメを目撃し、危うく襲われる所だった。
民話上もしくは遠い昔の化け物が、何故今になって現れた…?
原因は、震災。震災によって、人々が抱え切れないくらいの悲しみ、苦しみ、辛さを背負い、それを食らいにまた姿を現したのだ。
これに対処する事になった妖怪たち、キワさん。
前半のほのぼのとした作風から一転、ラストは暗雲立ち込めるサスペンスフルな展開に。
アガメは人の負の感情を食らって食らって食らって、怪獣のようなデカさに。
キワさんはたった一人で立ち向かう。
…って言うか、おばあさん一人で大丈夫…? 案の定、アガメの力は予想を遥かに超え、全く歯が立たない。
遠野のマヨイガに出向いたのは、ユイとひよりを守る為。この危険に巻き込めない。
そんなのイヤだよ! だって、私たちは家族。また3人で岬のマヨイガで暮らす。
ユイとひよりはキワさんを助けに向かう…。
このラストの急展開、人によっては蛇足感や違和感を感じるかもしれないが、私は必要性あると見た。
ユイとひよりにとっての“アガメ”は、各々が乗り越えなければならないもの。
助けに向かっていた時、ユイは父親と出くわす。
強引に連れ戻されそうになる。
この時のユイの台詞…
ここに居たい。ここで暮らす。ここが私の家。
これは東日本大震災被災者の叫びの代弁。
震災によって住む家を失った。大切な人も亡くした。何もかも私たちの周りから消えた…。
だけどそれでも、私たちはこの東北の地で生きていく。暮らしていく。私たちの“マヨイガ”なのだから。
連れ去られるユイ。その時、遂にひよりが…。
“声”は時に人を傷付ける凶器にもなるが、やはり私は信じたい。“声”こそ人の心や思いを伝えるこれ以上ない力。
単に化け物を倒す話じゃない。
悲しみ、苦しみ、辛さを断ち切り、新しい一歩を踏み出す。
まるで鎮まるように消えていったアガメ。
アガメ=つまり、人の心にはそれぞれ抱えるものがある。
“再起”って言葉や口では簡単に言えるけど、実際は難しい。
少しずつでいい。地に足付けて、気持ちを持って、少しずつ。
“擬似家族”と“和製ファンタジー”の児童文学を書き続ける柏葉幸子。
川面真也監督の温もり豊かで丁寧な演出。
名脚本家、吉田玲子の手腕。
彼らの賜物。
コロナ、軍事侵攻、先日再び東北地方を襲った地震…。
今世界は、世の中は、気が滅入り、イヤな事ばかり。
単純に解決出来ず、どうしようもない問題だらけ…。
ただでさえ日々の暮らしも楽ではない。
そんな時だからこそ、この作品に癒された。包み込んでくれた。
心優しく、ほっこりするほど。
悲しくなったり、苦しくなったり、辛くなったり、迷うような事があったら、いつでもおいで。すんぺすんな。
ふしぎっと、マヨイガ、妖怪たち、人々がもてなしてくれる。
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