劇場公開日 2021年2月26日

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「あっさり解決するのには理由がある?」ステージ・マザー コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5あっさり解決するのには理由がある?

2021年3月2日
PCから投稿

コメディでありながら、込められたメッセージも含めて面白かった。

そもそも予告編だと『がんばれベアーズ』のゲイバー篇みたいに見えたし。
本編を観はじめると、なんでこんなに複雑な問題を、ママがいるくらいでひょいっと解決できるのかと疑問にも思い、底の浅い話に思えなくもないのですが。
最期まで観てみたら全然違いました。

重要なことは、ママがテキサスの老女ってことなんだと思いました。
南部なまりの白人で、旦那の命令に絶対、ゲイを毛嫌いする典型的な南部の60~70代女性として登場します。
テキサスといえば、12〜3年くらい前まではバリバリの保守地盤。
カウボーイ思想というか脳筋のバカが多いイメージで映画はつくられことが多く、共和党・トランプ支持、キリスト教右派原理主義者の巣窟「バイブル・ベルト」の一つでした。

ところが、ここ10年ほどは移民やビジネスに成功したアフリカ系黒人・ヒスパニック系が増加し、人口と税収が増え、「明るいアメリカ」「成功したアメリカ」みたいなイメージが増してきて、民主党支持の割合が半数近くなってきた。
その結果、昨年の大統領選挙では超僅差でバイデンが勝利しました。
とはいえ依然として保守派の声も大きく、トランプが勝たないのはおかしいと、バイデンの不正疑惑を叫び、選挙の無効を訴えたのもテキサス州。

舞台はサンフランシスコではあるのですが、そこで奮闘するステージ・マザーがテキサスの人。
テキサスの女性が、亡くなった息子の店に関わるスタッフや、息子の恋人など、すべてゲイ(男性)で、非白人で様々なマイノリティ人種を前にして、心を入れかえる。
多様性をすべて肯定する姿勢を示した。
それがまず大きい。

そしてママがやったことは、直接的な経営再建ではなく、スタッフに寄り添って、それぞれが抱えた問題の解決にほんの少し力を貸しただけ。
「寄り添う」
これも大事。
元々才能がある人間が、他人とのかかわりの中で失った自信を取り戻せば、事態は好転するのである。
しかし、勇気が出ない。
傷つくのではないかと一歩が踏み出せない。
あくまでも問題は、本人たち本来の力で解決していく必要がある。
だから、ママは自分のスキルで具体的に何もしちゃいけないのです。
せいぜい、子守をしたり、同じ母親としてスタッフの母親と話したりする程度。虐げられてきたマイノリティの心を母性で包み、見守ってあげる。
それが都合よくひょいっと解決しちゃうように見えるのだろうと思うのです。

そんなママの対極の存在として、ママの旦那がいます。
典型的テキサスの旧い保守の男性です。
このキャラがどういう扱いになるのかも、この映画の肝になります。

つまりこの映画には、
「テキサスにはまだ古くこりかたまったダメな人間もいるけど、新しく誰でも住み良いアメリカへ変わっていくよ」という決意と、
「だから旧い世代も若い世代を信じて見守り、時に寄り添い、時に協力してほしい」というお願い、
そんなメッセージたちが込められていた気がしました。
制作がカナダなのもあって、(リアリティが少々欠けていて)こうだといいなというファンタジーが入っていて、また現実はそんな状況でないからこそ、コメディとして面白く成立しているのですけれど。

また、そんなテーマに説得力を持たせる、心の内側を表した、とびきり上手い歌の存在は大きかったです。

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コージィ日本犬