「作品は悪くないが主演女優が残念」おもいで写眞 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
作品は悪くないが主演女優が残念
他人の価値観を認めない頑なな女性が少しだけ成長する話である。しかし主演の深川麻衣は、頑なな演技をするあまり、どんなときでも不機嫌な表情になってしまった。演出にも問題があるのかもしれないが、それ以上にこの女優さん自身のポテンシャルの低さに由来していると思う。
29歳の女性の役で演じた深川麻衣も29歳なのだから、それなりに社会に揉まれて苦労しているはずだ。笑顔が必要な場面では笑顔を、神妙な場面では神妙な面持ちをするのが普通である。共演した香里奈はそうやって無理なく演技していた。深川麻衣の演技だけが浮いていて、古谷一行の渾身の演技の場面でさえ、その怒ったような表情で台無しにしてしまっていた。テンカラットが会社を挙げて頑張った作品にしてはキャスティングを失敗した気がする。同じ会社の田中麗奈は40歳だがその演技力で29歳の役も可能だったのに。
作品自体は悪くない。地方都市でも少子高齢化は着実に進んでおり、福祉行政は高齢者の多様性に対応できず、孤独死も多い。老人たちの暮らし向きを把握するために、思い出の場所で写真を撮影するという企画はとてもいいと思う。この映画を見て実際に思い出写真の企画を始める自治体もあるかもしれない。
手話を混じえたあたりも熊澤監督の才能が光る。古谷一行と一緒に古い写真を見るところが本作品で一番感動する場面だが、深川麻衣が無表情で演じてしまったために、やや盛り上がりに欠けてしまった。
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