「まるで経験者が作ったような世界観」ダニエル KZKさんの映画レビュー(感想・評価)
まるで経験者が作ったような世界観
主人公のルークは幼い頃、両親の不仲な関係に不安を覚え、空想の人物ダニエルという存在を創り上げ彼と会話し遊ぶ事を楽しむ。
そんな姿を母は心配し改善させる。ルークは一旦ダニエルの存在を消す事ができた。
時が経って大学生になったルークは大学生活へのプレッシャーや、今度は母親が幻聴や幻覚からくる自傷行為を繰り返したり総合失調症を患い精神病棟に入院となる。
そんな日常生活から心へプレッシャーがかかり十数年ぶりに心に閉じ込めていたダニエルの存在を解き放ってしまう。
このダニエルというのはルークの頭の中にだけ存在する幻覚なわけだからもちろん他人には見えない。
当初はダニエルはルークと共通する事の多い価値観の持ち主として共生していくが、徐々に価値観、思考共々かけ離れた存在となり、ダニエルは人徳に反した悪的な存在となる。
その悪であるダニエルの存在にルークは支配され最終的には周囲を傷つけ孤独となり最後は自殺して話は終わる。
この幻覚症状をサイコチックにそしてホラーチックに描かれているので面白かった。
このルークとダニエルの関係はいわゆる病的な関係性なわけだが、この自分の中にもう1人の自分がいる感覚というのは病気までいかなくても誰しもが経験ある事ではないか。
例えばやってはいけないと分かっている事を一瞬やってみたい、やったらどうなるのか。こんな様な自分とは反する考えを自分自身の中で自問自答する経験はあるのではないか。
その存在関係を究極に極めた世界観がこの作品であり擬似体験しているような感覚になり楽しむ事ができた。
さすがにルークの様の経験はないがこの創造の世界は共感できたり没入できる。この監督、そして作品に関わる関係者は経験者ではないかと疑いたくなるくらい妙にリアル感を感じた。
頭であれこれ考えてしまうと理解が難しくなりそうな作品に感じる。感性で楽しむような作品に感じた。
この作品のもう一つの魅力はダニエル役のシュワちゃんの息子の存在。時折見せる強い眼差しが若い頃のシュワちゃんを彷彿させてくれ、シュワちゃんファンはこれらも楽しめる要素の一つである。
お父さんに比べたら体はだいぶ細いがこれからお父さんの様になっていくのかな。これからが楽しみな俳優の1人である。