「日本映画最高の才能が結集した独創的かつ画期的映画」ドライブ・マイ・カー 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画最高の才能が結集した独創的かつ画期的映画
2021年。監督:濱口竜介。原作:村上春樹。脚本:濱口竜介&大江崇允。
村上春樹の原作を再構築した脚本が素晴らしいです。
そしてチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を劇中劇にしたアイデア。
その相乗効果から生まれた緊迫感。179分間、緩むことは全くない。
チェーホフが「ワーニャ伯父さん」で伝えていること。
人間とは絶望して死ぬのではなくて、絶望しても生きること。
村上春樹の「ドライブマイカー」が伝えるのも同じ。
村上春樹の原作を読みました。
映画は原作を更にドラマティックに、より実験的にそして野心的に。
演劇「ワーニャ伯父さん」を中心に据えた濱口竜介監督のアイデアが冴えました。
短編「ドライブマイカー」では妻を亡くした舞台演出家・家福(かふく)が、妻の浮気相手の
俳優・高槻と思い出を語り合うシーン。
そしてそれをマイカーのドライバーのみさきに、話す事で
妻の不貞で受けた傷に折り合いを付ける。
そこまでが描かれています。
短編「シエラザード」では映画の中の重要なエピソード。
妻の音(原作には名前がないのですが、)の夢の話。
音が17歳の時。
初恋相手の家に空き巣に入る。
そして痕跡を残すように自慰行為にふけります。
何回目かの空き巣の日、遂に誰かが帰って来る。
(家福は、そこまでしか知りません。この夢の結末を知っているのは浮気相手の高槻でした)
空き巣の結末は実にインパクトがあるうえに、不条理でした。
登場人物の高槻(岡田将生)を自分をコントロールできない問題児とした脚色はお手柄です。
(岡田将生も「悪人」以来の好演で応えています)
高槻の存在と引き起こすアクシデントは、この映画を劇的に転換させます。
結果、みさきと家福は、みさきの郷里・北海道の上十二滝村へと、2日間のドライブ旅行に
向かうことになるのですから・・・
そしてドライバーみさきの過去。
映画では原作を大きく変えてみさきのある事故(事件?)にフォーカス。
みさきは暗い過去を引きずる女性でした。
濱口竜介監督は主演の西島秀俊についてこう話しています。
「この映画を3時間観ることは、西島秀俊さんを3時間観続けることです」
西島秀俊は実に素晴らしい主演者でした。
ご覧になれば分かりますが、彼はこの映画を進めていく動力であり、
物語を支える柱です。
そして彼が3時間通して魅力的で、少しも邪魔にならずに、飽きない稀有な存在だと
知る事になります。
音のエピソード。
みさきのエピソード。
高槻のエピソード。
この3つは映画に劇的なアクセントと衝撃を。
しかし何よりこの映画の《核》となったのは、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」です。
車中のカセットテープに吹き込んだ音の音声・・・
その声に肉声で合わせる家福の台詞。
そして広島公演のオーディションが始まる。
オーディションの応募者は多国籍で、
参加者は多言語・・・韓国語、北京語、タガログ語など9カ国の言語を話す出演者とスタッフ。
更に耳の不自由な韓国人の手話の応募者も。
不思議なコラボレーションが醸す相乗効果。
ここが、この映画の大きな特色。
(しかし、この演出。海外映画祭向けの戦略の匂いも・・・)
アクシデントの結果。
家福とみさきは北海道・上十二滝村へ向かい・・・
2人は心の内を吐露して・・・抱擁します。
実に見事な喪失と再生の物語でした。
琥珀糖さん、私のレビューは低評価なのに共感ありがとうございました。私はファンタジーやコメディみたいな娯楽作品じゃないシリアスな内容だとリアリティを求めてしまうので本作は合いませんでした。でも琥珀糖さんのような見方は素敵ですし、世界が広がって、うらやましいです。
琥珀糖さん
コメントありがとうございます。
たまたまレビューを拝見して…
わたしはそこまで深く思い巡らす
ことはできなかったので感動しました。
…喪失と再生
ということは分かっていましたが…
その後に色々と考える切っ掛けに
なった作品です。
その時期に
喪失と再生の映画を
何作か観た記憶があります。
私もこの作品の原作を読みました。琥珀糖さんの書かれている通り、複数の原作の見事な再構築だったと思います。もちろん、西島秀俊の演技も素晴らしかったですね。
みかずきさん!
実は内容は変えていませんが、ネタバレを押しました。
それとタイトルから、スリラー映画の言葉を省きました。
印象が変わったのなら嬉しいです。
いつも心に懸けて頂きありがとうございます。
琥珀糖さん
みかずきです
更新順序が最上位になっていましたので、再読しました。
改定しましたよね?
レビュー全体がスッキリして読みやすく迫力が増した感じがしました。
沢山の方のレビューを読んでいるので、混同していたらスイマセン。
ではまた共感作で。
-以上-
原作既読者の方でも納得の出来映えのようですね。
本当に見ていて、様々な感想を思い巡らし、様々な感情が溢れました。
これこそ映画の醍醐味と言えるでしょう。
改めて、本作の海外での快挙は誇らしいです。
でもそれで満足せず、さらに飛躍していって欲しいです。
素晴らしき哉、日本映画!
琥珀糖さん
みかずきです
共感&コメントありがとうございます。
原作の村上春樹の小説とは相性が悪いですが、
観たい作品だったのでダメ元で観ました。
結果、海外で高評価されるのも納得の作品でした。
ただし、多言語舞台劇は多国籍映画のようで、もっと邦画らしさを大切にして欲しかったです。
ラストシーンは観客に委ね過ぎかと思いましたが、
役者の演技力、カメラワークで、私なりのラストストーリーは作れました。
あまり映画を観ない人には、あのラストシーンはちょっと難問かなと思いました。
追伸:
琥珀糖さんのマイページを閲覧するたびに、
レビュー数が激増していますね。
レビューライブラリーを移植中ですか?
私も移植中ですが、折角、移植するなら手直しをと考えるので、
移植速度は遅いです。
では、また共感作で。
-以上-
今晩は。
コメント、ありがとうございます。
上十二滝村・・と言っても、申し訳ないのですが、どこら辺りかは分からないのですが・・。
北海道には、学生時代に一カ月半!ほど岳友と行き、黒岳に登り、真冬の神居古潭に雪の中行き、塩狩峠付近のユースホステルの温泉に行き、北大の寮に泊り(旧帝大は、今では分かりませんが、お互いの寮に泊まれました)、その後家人と定山渓や釧路に行ったり、思い出の地です。
最近は、ナカナカ行けませんが・・。では。
あ、今作は私の中では、現時点ではベスト5に入る作品でございます。
CBさま。
私のレビュー、読んで下さって、
ありがとうございます♪
とても感激です。
先ほどから、Amazonなどで、「偶然と想像」のDVDを探しても、
どっこでも売ってないようです。
売れてしまったのかもしれません。
配信も、見つかりませんでした。
気長に待ってみようと思っています。
濱口竜介監督の作品は、いつまでも映像が心に浮かびます。
お返事ありがとうございました。
「偶然と想像」へのレビュー、ありがとうございました。せひ、観てください。自分も琥珀糖さんの奥深いレビューが大好きなので、楽しみです。どこかに書きましたが、俺は正直、濱口監督の話はあまり好きではありません。それなのに、毎回これだけ集中して観ることになるこの脚本、この演出、この撮影って、すごいんだろうな、と感じています。
> 人間とは絶望して死ぬのではなくて、絶望しても生きること
それをあっちからもこっちからもというか、対峙している現実からも、作り上げている演劇からも、伝えてくる脚本は、秀逸ですよね。ホント。