「前情報なしで鑑賞」ドライブ・マイ・カー haginoさんの映画レビュー(感想・評価)
前情報なしで鑑賞
余計な先入観なしで見たかったので、あらすじもほとんど見ずに鑑賞。ただ三浦透子の運転で西島さんと会話しているシーンだけPVで記憶にはあった。
オープニング、朝方の日差しをバックに女性が起き上がり物語を語るところから始まる。
しばらく逆光で顔も見えず、最初女性が外を見ながら話しているのかと思ったらこちらを見ていてびっくりした。
これはなんの話だろう、西島さんとの関係はなんだろうと考えながら見ていました。
一方的に西島さんが思ってるようにも見えたので、夫婦とは思わなかった。霧島さんが美しくも儚げでした。
そして舞台。ベケットのゴドーを待ちながら。タイトルは知ってるが見たことはない。楽屋で西島さんが付け髭をとるだけなのに、なんか印象に残る。
帰り道の車で、カセットテープで流れるチェーホフ「ワーニャ伯父さん」のセリフ。妻が吹き込んだもので、西島さん演じるワーニャのセリフの部分は抜けていて、カセットテープを通して掛け合いをしているのが、なかなかいい。離れていても繋がっている感じがあった。
チェーホフの戯曲の別の舞台は見たことあるが、私はどうしても入り込めず苦手だった。
ある時出張がキャンセルになり家に帰ると、妻の浮気現場を見てしまう。そしてそっと後にして見なかったことにしてその後も普通に接する。この時はなぜ責めないんだろう、裏切られてるのに普通に話せるんだろうと思ったけど、妻が大事でなくしたくないから見て見ぬふりをしたのだとありなんかわかるような気もした。
そして妻からある朝、夜に話があると伝えられ、なんとなく家に帰りづらくて遅く帰ると妻は倒れていてそのままなくなってしまう。くも膜下出血とのことだったが、何を話したかったんだろうかと謎が残る。
二年後、広島でワーニャ伯父さんの舞台をすることになりそのオーディションが開かれる。そこに集まった多国籍の人たちの中に妻の浮気相手、岡田将生もいる。
オーディションの演技で、岡田将生と台湾人のソニアユアンがすごかった。言葉は通じないのに、なんか迫力あってじんとした。そして、韓国人で聴覚障害を持つパクユリムがまたすごかった。手話と目の演技だけでなんか迫るものがあって泣けた。
妻の浮気相手とはいえ、ここはちゃんと仕事として役者としての才能を見ていると思った。大人ですね。
車の運転は三浦透子。最初は淡々とカセットテープを流して、それに合わせてセリフを言ってるだけだったが、だんだん他の話をするようにもなって、お互いの孤独とか虚無感を埋めようとしている感じがあった。
岡田くんの、相手のことを知らないからもっと知りたいと思うのは当然じゃないですか、という言葉にハッとさせられる。やり方は違っていたかもしれないけど、彼は彼なりに自分の心に素直ではあった。見たくない、知りたくないことから顔を背けていては、何も始まらない。
ちゃんと向き合っていくことが大事。
ある事件をきっかけに、車で北海道まで出かける2人。長いドライブの中で、お互いのことをさらに知り、心を通わせる。家族みたいな、、そんな感じだった。
途中、テロップが流れたから、え?終わり?と思ったが、続いていてホッとした。第二幕という感じだろうか。
所々に入るチェーホフのセリフと、本編のストーリーが交差し、さらに深い話となっている。
北海道に着いた時、周りの音が一切なくなり無音となるのが印象的だった。とても美しかった。
雪崩で埋もれた家の前に花を投げ、タバコを線香がわりに雪の中に立てたり、車の中でタバコを吸っては、2人が車の天井へ手を伸ばし、煙を外に逃すようにしているところも、車を大切にしているからという思いがあって印象的だった。
見ている間、いろいろ思うことはあったのに、見終わったあとはなぜか無になってしまった。そしてじわじわと湧いてくるものがあった。これは二度三度見ることでよりわかる味わい深い映画なのかもしれない。
そして、これを通してチェーホフの舞台の見方も少し変わったような気がした。