「虚構と現実について」ドライブ・マイ・カー Radio21さんの映画レビュー(感想・評価)
虚構と現実について
今日は、水曜日という週のまんなかの祝日だった。夫婦で日比谷に映画を見に行った。
話題になっているDrive My Carという映画だった。僕の好きな村上春樹という小説家の短編を基礎に魅力的な枝葉を加えた面白い映画だった。
そのあと八重洲の中華料理店でランチを取りながら、kindleで原作の小説を読み直し始めた。
どこが村上春樹の原作の幹の部分で、どこが、映画的な枝葉の部分なのかをフレッシュな記憶の中で切り分けるのは面白い。
原作のある映画がすべて忠実に原作の小説を再構成する必要があるわけでもないし、そんなことは当然不可能である。
しかしこの映画は、一番幹のところを大切にしながら、映画的な枝葉の部分がかなり逞しく繁茂していく感じがあってとても良いバランスのような気がした。
ただ3時間という長時間。少し、長すぎる気はした。何事も短いものを良しとする社会的流れの中で、僕の忍耐力も日々脆弱になっているせいも大きい。
なんどか、睡魔に襲われた。
しかし、かなり太い枝、まるで幹のような規模の枝である劇中劇「ワーニャ叔父さん」のワークショップから上演までの流れはこの映画の最高のパーツだった。
原作の幹の部分の虚構を厚くするドラマの部分の演技のわざとらしさに比べると、舞台で演じられる虚構の中に現れるリアリティが素晴らしかった。
特に劇中劇の最後で、韓国語の手話と日本語で語られるシーンの美しさは過去に見た映画の中でもっとも美しい場面だった。
この映画のどこが、アメリカの比較的知的な人種の心を癒しているのだろうかというのが映画を見終わったときの感想だった。
コメントする