「「言葉が通じないってわたしには当たり前の事ですから」」ドライブ・マイ・カー きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
「言葉が通じないってわたしには当たり前の事ですから」
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①「言葉が通じないってわたしには当たり前の事ですから」
「あなたはいま幸せなの?」
ドキッとする決め台詞をろうあ者のユナに言わせて、僕に揺さぶりをかけてくる映画でした。
オスカーノミネートで、急遽、当地でもリバイバル上映しています。
“観せる側と観る側、半々で一方通行の言葉を受け取って完成をさせる”
―そんな作品だったと思います。
日本語
韓国語
英語
北京語
タガログ語
韓国手話
インナーチャイルドの多重人格の幻聴の声
そして字幕。
通じることの起こらないたくさんの一方通行の台詞が、この「実際の舞台化には(あまりにも実験的すぎて)現実的ではない原作」を、映画の形に止揚していく有り様が実に見ものなのです。
そしてもうひとつ、
通奏低音として流れるのが死んだ妻のカセットテープの声でした。
空白・無録音の《pause》部分に西島が声を入れても、それは相手は既に存在しておらず それは虚空に向かって放つ言葉。返事をもらうことはもう出来ない
=「舞台」としても「男女の会話」としても、意志の疎通も感情の交流も成立が果たせない、
人間関係の断絶がそこに。
結婚は稽古。
結婚は舞台。
言葉の通じない赤の他人と暮らすためには、練習と、通訳の助けと、字幕の補完によって、通じ合えない共演者を知ろうとする稽古が不可欠なのだと言っているようで。
これは象徴的ですね。
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②「対話が足りなかった」と
北海道でめそめそしていた西島のくだりは陳腐で浮いていたが、読者サービスだろう。
自分事としては、
妻との離婚は、あれはどうだったのかと、いまだに頭に浮かぶこともある。
でも舞台ごと(結婚ごと)に、オーディションは行われるのだ。役者の人選の当落は演出家がその都度決める。
力のない俳優ならば次の仕事はないし、岡田将生のように自分から転落もしていくことだろう。
お互いに一公演を終え、お互いにダメ出しを出して“共演”をやめたのだから、僕たちの終演・解散・契約解除は、それで良かったのではないかと思っている。
西島は自分の車を自分で運転している。
みさきも自分の車を自分で運転する。
そして
家福音も、彼女は自分の人生という車を彼女自身の意志で運転し、彼女が若い男をその助手席に呼んだのだ。
急死した妻のこと、心残りはあるのだろうが夫西島が妻の生き方について何か自分の責任であるかのように思うのであれば、それは違う。
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③ラスト、
不思議な展開を見せてエンディングへ、
喋らなかった運転手が韓国語を学んで話すようになっていましたよね !
(コロナのマスクをしていたので後日談として数年後のシーンだな)。
生まれと育ちの桎梏を突破して、ついに外国に飛び出し、外国語を話している運転手の彼女=みさきへの驚き。
言葉が通じたときに人間の心身に起こる奇跡の出来事を、あれは表していたのだろうなあ。
恐らくは西島が仕事をする韓国へ、オブザーバーの韓国人夫妻と犬も連れて、心通じた者たちを詰め込んで、ちょっと狭めだけど、赤いSAABは世界を走り始めたのだと思う。
🚗
さて、
オスカーのゆくえはどうなるだろうか、
あるいはもしかしてこれは「脚色賞」とか行くのではないかと考えながら映画館をあとにした。
開演1時間後にタイトルが出てくるところとか、濱口監督、やるね。
もう一回観たくなった。
きりんさん
コメントありがとうございました。
西島秀俊の棒読みは、独特の魅力がありますね。
あのルックスだからこそ…でもあると思いますが。
香川照之みたいなのだけが良い役者ではないですね。
きりんさん 「パラサイト」にいいねをありがとうございます!ドライブ•マイ•カー とても納得出来るレビューですね!特にみさきの現在についての考察。なるほどーです!
きりんさんコメントありがとうございます。
なんと!素晴らしいレビュー‼️
私は穴があったら入りたいです。
僭越ながらフォローさせて頂きます。今、村上春樹を読んでます。
よろしくお願い致します。
今晩は。
”SAABは、無骨さと堅実さ、そしてお洒落度が好きで、僕が40年前に西武自動車からカタログを取り寄せた車でもありました。”
ビックリ!
SAABは、最近はあまり見ませんが、今作では原作とは違う色にしたことが成功しているし、格好良い車だなと思った次第です。
きりんさん、お若き頃から、センス抜群ですね。
今作は、私が最近では一番気に入っている映画でして、賞とか関係なく、更に多くの人に観て貰える状況になった事は、嬉しき限りですね。では。
きりんさん
きりんさんのおっしゃるような他言語の世界で、言葉を通じさせる、或いは通じないということが、外国の人たちの心にも響くものがあったのかもしれませんね。そして、言語的でなかったみさきの変化。もう一歩深く味わえる映画だと思えてきました。ありがとうございます。
赤のSAAB、これも何かの象徴。それと思い出が繋がっているなんて、とても素敵なことですね。
北陸道で親不知の部分だけが難航していた時代を思い出します。
完成したばかりの頃は片側1車線でむちゃくちゃ怖かった・・・
いやはや最近は高速さえ乗ってないので、忘れてしまいましたが。
今年のオスカー授賞式は楽しみがいっぱいですね♪
あの劇中車=スウェーデンのSAABは、無骨さと堅実さ、そしてお洒落度が好きで、僕が40年前に西武自動車からカタログを取り寄せた車でもありました。
懐かしさで一杯🎵
ボルボと共通部品も多いので維持はそんなに大変ではありませんよ。