劇場公開日 2021年2月12日

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「検察はいくつかの仮説を提示する。もっとも信頼する仮説を陪審員は選ぶ。つまり、世間が信じるのはひとつの仮説にすぎない。」私は確信する 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0検察はいくつかの仮説を提示する。もっとも信頼する仮説を陪審員は選ぶ。つまり、世間が信じるのはひとつの仮説にすぎない。

2021年3月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告とかから想像できるように、この裁判の結末は見えている。肝は、その結論に至るまでの弁護側の奮闘だ。裁判は、ヴィギエ被告が妻を殺したかどうかのみを争う。ほかに容疑者らしき人間が浮上しても、脱線はゆるされない。とことん追い詰められていく様は、自分が被告だったら気が狂いそうだ。
てかその前に、フランスでは死体がないのに殺人事件として立証されるの?
これだけ人格まで攻撃しておいて、ただの行方不明だったらどうするの?
そうそう「gone girl」ってのがあったじゃないか。ああいう場合だったら、生きてたねゴメンね、って謝って済ますの?
警察の杜撰な捜査、検察の偏見。まるで、体格差のハンデ戦を強いられた理不尽さが付きまとう気分だ。土壇場まで追い詰められながらも、判決の大きな決め手は、弁護人の最終弁論であったことは明らか。あれが陪審員の心証を揺るがした。だけど、そこにフランス司法に対するおおきな不安と恐怖がある。じゃあ、例え無実でも、検察側が、さも真実であると思えるほどの説得力のある仮説を提示した場合、有罪になるのではないか? 推定無罪の原則なんてないじゃないか。結果に喝采を送るよりも、その惧れをぬぐえない制度に震えがきた。そして、テロップで流れた「その後」に、この結末に消沈している多くの関係者を、影からほくそ笑む誰かの存在を、僕は確信する。その誰かは、誰なのか。妻か?間男か?もしかしたら無罪を勝ち取った本人か?まだまだ隠された真実がありそうだよ。根は深いんだろうなあ。

栗太郎