劇場公開日 2021年1月22日

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「韓国の歴史を学ぶ」KCIA 南山の部長たち CBさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0韓国の歴史を学ぶ

2021年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この映画は、朝鮮戦争後も混乱していた韓国(大韓民国)で1961年に起きた、李承晩大統領暗殺の1日を追ったもの。

韓国で映画が精力的に作られていて、その質もきわめて高い。おかげで、多くの韓国映画を観ることができ、戦後韓国の歴史に触れることもできる。映画はだいたい面白いし、学べるチャンスだし、いいことづくめだよ。

第二次大戦前に日本に併合されていた朝鮮は、終戦後、北をソ連、南を米国に占領統治された。1948年、南では軍部の李承晩が大韓民国を設立し大統領となった。翌月北では金日成首相が朝鮮民主主義人民共和国を宣言し独立した。南北が戦い続けた朝鮮戦争(1950-1953)において、韓国(大韓民国)は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に攻め込まれ続け、米軍・国連軍の支援にも関わらず、全滅・敗北寸前までいった。釜山で踏みとどまり、仁川上陸作戦で流れが変わり、逆に平壌まで侵攻するも、中国参戦で押し返され、1953年に停戦となった。(現在も、終戦したのではなく、休戦) 李承晩は、初代大統領として朝鮮戦争後も政権を続けたが、最貧国事情の中での権威主義的体制が嫌われ、1960年に学生デモを契機に政権崩壊。自由政権の下で、南北統一運動が盛り上がったのに危機感を感じた軍部は、翌1961年にクーデターを起こし、本作にも登場する朴正煕(パク・チョンヒ)が政権についた。(本作で、キム部長が叫ぶ 「俺たちは、なぜ命がけで革命を起こしたんだ」 の革命とは、この1961年のクーデターのことをさしている)

1961年に発足した軍事政権は、1960半ば~1990の25年間に及ぶ高度成長期 「漢江の奇跡」 の前半も実現した。この映画の主役となる "KCIA(中央情報局)" は軍事政権発足の1961年に南山に設立され、拷問を行うなど人民に恐れられ、朴正煕政権を支え続けた。その政権と一心同体にみえるKCIAのキム部長が、革命の同志でもあるパク大統領を、なぜ、暗殺することになったのか、映画はそこを追う。

大統領に次ぐNo.2 の座を情報部のキム部長と争うイ室長や、キム部長の前任で米国に情報リークすることで身を守っているクアク元部長など、まさに「南山の部長たち」 を通して描かれるのは、長期独裁政権で、孤高になり都合よく部下を使ていくだけになっていく大統領の姿だ。それは、ともに理想をめざしてかって蜂起したキム部長の目を通して描かれる。 「君のそばには、私がいる。好きなようにしろ」 という大統領の魔法の言葉によって、部下たちは自由にあやつられ、そしてあっさり切り捨てられていく。

発足当初は理想に近く見える権威主義が、長期政権下で必ず衰えてひどいものになってしまうことは、このパク大統領の例ばかりでなく、歴史上何度も繰り返されており、我々が注意しておかなければいけないことだと思う。

もはやレビューというよりも歴史の話に近くなってしまった。近隣国なので、この機会に、ある程度調べて書いてみた。朝鮮戦争は、金銭的には、最貧国だった日本が、鉄を始めとする戦争需要で、富を蓄えることを助けてくれた形になった。その日本は、かって朝鮮を併合する形で軍事支配していた。隣国は、歴史上の接点が数限りなく存在するものであり、各自の目で両国の歴史は知っておかねばならないものだと、あらためて感じている。

CB
CBさんのコメント
2023年9月24日

褒めてくれてありがとうございます

CB
コバヤシマルさんのコメント
2023年9月23日

素晴らしい!最後のレビューというより〜〜の思いが痛い程伝わってくる文章だと感じました。自分も全く同感で調べれば調べる程訳分からなくなる事件と背景には驚きました。素晴らしいレビューありがとうございます。自分も参考にさしていただきます。

コバヤシマル