「無感覚の外道」ポゼッサー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
無感覚の外道
この作品がえげつないのは、人格を乗っ取られた人間が死ぬことでしか中の暗殺者が離脱できないことだ。
つまり憑依される人間は暗殺のターゲットというわけでなく、ただ犯人に仕立て上げられる無関係の人ということになる。
そして、そのことに全く罪悪感など感じていない組織の人々。自分たちは正義を遂行しているかのような清々しさでいることが不気味だ。
暗殺を請け負う組織はハッキリ言って悪だ。多くの映画などの悪は自分たちが悪事を働いている自覚がある、もしくは正義のための悪事、いわゆる確信犯であることが多い。
しかし本作の組織の人間には、自分たちが悪事を働いている感覚すらない。信念もない。ただ自分の利益のみを追求する外道。こうなるとどこまででも落ちていく。自分たちを止めるものを何も持っていないからだ。
そんな中、主人公タシャは別れた夫とまだ小さい子どもに執心している。「自分」しか考えない組織にあって異質の存在といえるかもしれない。
それはある意味でタシャの仕事への集中力の欠如、任務に対しての非情さの欠如に繋がっているように思える。
先任の暗殺者だったガーダーはタシャを有能とみているようだが、本当にそうだろうか。オープニングの任務のときすでにタシャは不安定に見えた。
そんな不安定さからなのか、タシャとタシャに体を奪われた男の意識の混濁が物語のメインだ。
体に入り込むタシャの意識や記憶が元々自分が持っていたものなのか体の持ち主のものなのか定かではなくなっていく様が面白い。
次第に何をしようとしているのか、何をしたいのか自分でも分からなくなっていく。二人の人間の意識が溶け合って一つになっていくような不思議さが面白かった。
体の男の意識にタシャの意識の中のいらないものが溶け込んで、離脱したあとのタシャは組織にとって都合のいい、自分たちと同じ無感覚の外道になったのかもしれない。
余談だが、血の表現がなかなか強烈で、食事中に観るのは向かないなと思った。
そんなわけで血がグロいので苦手な人は観ないほうがいいと思う。