「林檎のちょっと酸っぱい感覚が伝わるその確かな存在感」林檎とポラロイド マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
林檎のちょっと酸っぱい感覚が伝わるその確かな存在感
人は、これ以上ないと思える悲しみに襲われた時、すべてを忘れてしいたいと、思うのかもしれない。その心を、少し屈折した形で表現すると、こんな映画になるのでしょうか。
非現実的な世界観に、安部公房の小説やカフカの『変身』を思い浮かべていました。彼が陥れられた現実は、不条理そのものなのでしょう。そういえば、固有の人名は誰一人として出てこなかったように思います。
ただ、重い雰囲気はなく、ちょっとシュールなユーモアは、楽しめる人には楽しめるのでしょう。それに、もの静かで端正なたたずまいの空気感、美しく統一感のある色調の映像。何とも魅力的です。
切れそうになる現実との接点を、林檎がかろうじてつないでくれる。時間をかけて、アンナを喪失した現実を受け入れる。そして、深い悲しみや諦念とともに、傷んだ林檎をひとりほおばる。
無音のエンドロールの時間も心にしみてくるようで、監督の繊細な心遣いが感じられました。
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