「セルヒオおじいちゃんの紳士ぶりに惚れる」83歳のやさしいスパイ よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
セルヒオおじいちゃんの紳士ぶりに惚れる
80〜90の老人募集という広告に応募したセルヒオ。仕事の内容は特養ホームに入所し、依頼人の母親が虐待にあっているか証拠を押さえてほしいというものだった。
最初はスマートフォンの扱いすらおぼつかないセルヒオだったけど、いざ入所すると持ち前の人当たりの良さや親切さを発揮し、入所しているおばあちゃん達のハートを次々に射止めていく。「わたし、あの人に恋しちゃったみたい」と所員に告白するおばあちゃんのなんとキュートなことか。
観る前は「え、この題材でドキュメンタリー?」と半信半疑だったものの、これは紛う方なくドキュメンタリーだった。入所者はカメラが入っていることは認識しているもののどういうテーマの映画かは知らされていないようだ。
際立つのはやはり、セルヒオおじいちゃんの紳士ぶりだ。調査のために多くの人から話を聞きたいという理由からとはいえ、おそらくは生来のものである人の良さや物腰の柔らかさを発揮して、どんどんおばあちゃんたちと親しくなっていく。この人たらしぶりは観ているこちらさえ惚れそうになる。ついにはホームの創立記念日のパーティでキングに選ばれ、クイーンのおばあちゃんとパレードに出るセルヒオおじいちゃん。
しかしながら、職務上の義務感からではなく、心の底から人と接することが好きなセルヒオだからこそ、のしかかる現実にやり切れなさを覚えたのであろう。彼が出した結論は、ありきたりではあるが本質的なストレートなものであった。
医療の進歩とともに、高齢者問題はどこの国でも避け得ない課題ではある。視点こそ違うが、今年は『ファーザー』の公開もあったし、たまにこうして立ち止まって考えてみるのもいいかもしれない。誰だって死なない限りは高齢者になるのだから。