「隠すより差し出す勇気、“多様性”を語らずに描き切った作品」あの夏のルカ deep1さんの映画レビュー(感想・評価)
隠すより差し出す勇気、“多様性”を語らずに描き切った作品
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『ルカ』はとても純粋で、単純で、完全に児童向けの作品だと思う。
ただ、その真っ直ぐさこそが本当に美しい。
彼らは、弱さや劣等感、見られたくない自分を隠しながら生きてきた。
シーモンスターであるという秘密はその象徴。
しかし最後に、彼は“秘密を守ること”よりも
大切な存在のために、自分を曝け出す勇気を選ぶ。
その瞬間の描き方が、この映画の最も輝いている部分だと思う。
物語は難解さや社会問題を持ち込んで観客を唸らせようとしない。
友情・憧れ・嫉妬・希望・成長――子どもでも理解できる言葉と感情で、まっすぐに描ききる。
だから逃げ場がなく、誤魔化しもない。誠実さが最後まで揺らがない。
そして、もうひとつ密かに素晴らしいのは、
“多様性”や“受け入れる社会”というテーマを
主張としてではなく、物語そのものの自然な結果として描いている点。
近年のポリコレ表現が陥りがちな「思想を物語の前に出す」カタチではなく、あくまでキャラクターの選択の積み重ねの末に、世界が彼らを受け入れる。
それゆえ押し付けがましさがなく、観る側に構えさせない。“ポリコレのための作品”ではなく、
“誠実な物語の果てに多様性が成立する作品”になっている。
美術面も圧巻で、
南イタリアの港町の光と色、濃いポスターカラーの絵具のような質感、巧みなカットと構図とつなぎが、画面の温度と空気をそのまま観客に届けてくる。
単純な物語を、誠実にそして鮮やかに描き切った映画。
子ども向けでありながら、子どものためだけの映画ではない。
嘘のない勇気と優しさをまっすぐ描き切ったからこそ、大人にも深く届くのだと思う。
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