「キャラクターも物語も類型的で、心に響くものがあまりない」あの夏のルカ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
キャラクターも物語も類型的で、心に響くものがあまりない
モチーフとなっている「人魚姫」のように、人魚の少年と人間の少女の「恋」が描かれるのかと思っていたら、人魚の少年同士の「友情物語」の要素が強く、それはそれで楽しめた。
ただ、いくら子供向けとは言え、狭くて閉鎖的な社会から広くて自由な世界へと旅立つ若者の話と、相手を知らずに反発し合っている種族の和解の話が、いずれも類型的過ぎて、あまり面白みを感じることはできなかった。
特に、子供を危険から守ろうとするあまり、無闇矢鱈に人間への接近を禁止する母親の過保護ぶりは、明らかに逆効果だし、人間と人魚が、どうしてそこまで相手を恐れ、嫌い合っているのかについても、その理由がよく分からなかった。
何よりも違和感を覚えたのは、海から出ただけで人魚から人間になったり、水に濡れただけで人間から人魚に戻ってしまう「変身」の簡単さで、これなら、2つの種族は、とっくの昔に交流し合い、共存することができたのではないかと思ってしまう。
そこには、人には隠している自分の本性の「カミングアウト」という、今日的なテーマも感じ取ることができるのだが、人魚であることが、あまりにもあっさりと人間に受け入れられる結末には、すっかり肩透かしを食ってしまった。
クライマックスのトライアスロンにしても、1人で参加しても、3人で参加しても条件は同じというルールは理解できないし、「泳ぎ」という能力を封印したルカが、初心者であるはずの自転車による山登りで力を発揮するという展開にも説得力が感じられない。
せめて、「両親から逃げるために馬鹿力が出た」みたいな描写があれば、少しは納得もできたのだろうが、いずれにしても、「人魚」という設定と「トライアスロン」という設定が噛み合っているようには思えなかった。
CGアニメの表現技法にも、取り立てて見るべきものはなく、気軽に楽しめる反面、心に響くものはあまりなかった。