「ヘルマン・ヘッセが『メルヘェン』で問うたテーマをなぞる『復活の日』ミーツ『宇宙戦艦ヤマト』フィーチャリング『アルプスの少女ハイジ』」ミッドナイト・スカイ よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ヘルマン・ヘッセが『メルヘェン』で問うたテーマをなぞる『復活の日』ミーツ『宇宙戦艦ヤマト』フィーチャリング『アルプスの少女ハイジ』
2049年2月、地球滅亡が迫る中北極の基地に独り留まることを決意した余命いくばくもない科学者オーガスティンは基地の中に一人の少女アイリスを見つける。そんな折太陽系で唯一移住可能な木星の衛星K-23での探査を終えた5人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船イーサー号が地球に向かっていることを知る。もはや地球に戻っても仕方がないことをイーサー号に伝えようとするが電波が弱過ぎて通信が届かない。より強力な通信設備がある観測所まで行くことを決意したオーガスティンはアイリスを連れて基地を発つが、その頃イーサー号にも危機が迫っていた。
『復活の日』ミーツ『宇宙戦艦ヤマト』みたいなお話ですが、SF小説『世界の終わりの天文台』の映画化とのこと。一言も言葉を発さない少女アイリスと接するうちにオーガスティンの頑な心が次第に解れていく様はほぼ『アルプスの少女ハイジ』。そんな既視感も手伝って、時制が前後する物語がばら蒔いていく小さな疑問が一気に開花するクライマックスに大いに泣かされました。これは原作にもあることなのかも知れませんが、アイリスという名前の他にも花に言及する台詞が散見され、イーサー号のレーダーが稼働するカットもまるで一輪の花が咲くかのよう。そのイメージが暗示する未来には『インターステラー』と通底する力強い生命の息吹が感じられます。そんな繊細な演出を披露した主演と製作も兼ねたジョージ・クルーニーの手腕に深い感銘を受けました。そして少女アイリスを演じたケイリン・スプリンゴールの天使のような愛くるしさは格別で、娘を持つお父さんは全員メロメロになることでしょう。
そして恐らくはこれがものすごく重要なところだと勝手に推測しますが、このお話の最も深いところに影響を与えているのはヘルマン・ヘッセの短編集『メルヒェン』収録の小品『アウグストゥス』だと思います。“誰からも愛されますように“という母親の願い通りの人生を歩むアウグストゥスに突きつけられる試練と魂の救済の物語はまんま本作と同じ。それは主人公の名前がほぼ同じであること、『メルヒェン』には『アヤメ』、すなわち“アイリス“という物語も収録されているので個人的には確信を持っています。
アイスランドでのロケ撮影による美しさと凄惨さを湛えた雪景色も印象的で、独特な外観とインテリアが特徴的なイーサー号のデザインも見事。こんなどこにも隙のないハードSFもシレッと製作できてしまうネトフリの破竹の勢いはまだまだ止まりそうにないです。娘を持つお父さんは是非ご一緒に鑑賞下さい。