「余韻を楽しみながらエンドロールに浸る、地味だけど味わい深い作品」ミッドナイト・スカイ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
余韻を楽しみながらエンドロールに浸る、地味だけど味わい深い作品
「ミッドナイト・スカイ」(原題:The Midnight Sky)。
ジョージ・クルーニーが監督・製作・主演で、フェリシティ・ジョーンズ共演。リリー・ブルックス=ダルトンの小説「世界の終わりの天文台」の映画化である。
本作は今週12月11日から劇場公開されているが、Netflixで2020年12月23日から配信予定の“Netflixオリジナル”。
“Netflixオリジナル”とか、“amazon primeオリジナル”というのには2種類あって、本当に配信会社が企画したものと、映画館向けに作られたものを大金を積んで買い付けたものがある。アカデミー賞にノミネートされるのは後者で、もちろんこれはジョージ・クルーニーが映画館向けに作った“映画”である。
市場経済の原理なので文句を言っても仕方ないし、ストーリーしか興味のないドラマファンに“映画館の美学”を説いても響かないだろう。作品がより多くのユーザーに視聴される手法と考えれば、“Netflixオリジナル”も是である。コロナのせいで、ディズニーも「ムーラン」や「ソウルフル・ワールド」の公開を断念してしまったし、これからの映画のニューノーマルに慣れるしかない。
個人的には、せっかくだから映画館クオリティで鑑賞することを願うばかりである。本作は、本来シネスコだが、配信向けの16対9アスペクトのレターボックスで小さく上映される、むなしさ。
愚痴はさておき。
本作は、滅亡の危機にある地球に向かって、宇宙から帰還しようとしている宇宙調査船が出てくるので、SF映画っぽく思うかもしれないが、テーマは、人生の最後に愛する者へ寄せる想いを描くヒューマンドラマである。
余命わずかの科学者オーガスティン(ジョージ・クルーニー)は、放射能汚染で滅亡の危機にある地球から脱出する人類を見送り、独り北極の天文台に残る。ところが独りぼっちのはずの施設に、謎の少女が取り残されていた。そこから奇妙な共同生活がはじまる。
一方で20年前に地球を旅立ち、木星の衛星調査をしていた宇宙船が何も知らず地球に向かっていた。オーガスティンは地球帰還を止めようと通信を試みるが、双方に別々のトラブルが発生する。
全体的に淡々と映画はすすむ。途中のトラブルで起伏のアクセントをつけてはいるものの、エンディングにはまたゆったりと時間が流れ、地球の終わりを迎える北極と宇宙の孤独感が重なり、人生の終わりに誰かに会いたいと想う気持ちが奇跡のつながりを生む。
“人生の最後とは何か”という余韻を楽しみながらエンドロールに浸る、地味だけど味わい深い作品。
(2020/12/13/ヒューマントラストシネマ渋谷 Screen1/シネスコ・レターボックス/字幕:栗原とみ子)