劇場公開日 2020年10月9日

「映画は本来映画館で観るもの」シカゴ7裁判 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画は本来映画館で観るもの

2021年5月4日
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鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

難しい

2021年映画館鑑賞41作品目
5月3日(月)イオンシネマ石巻

60年代の実録物
ベトナム戦争に詳しい人じゃないとこの映画をきちんと理解するのは難しいかもしれない
この時代のアメリカの空気というものは現代の日本人にはわかりにくいかもしれない
わかったつもりでも今の日本の世相に置き換えて考えてしまい己の思想に基づいた個人的で頓珍漢な解釈をしてしまう可能性が高い

タイトルは7だが被告人は8人
黒人が除外されている
途中で無効になったからか

60年代のハリウッド映画は言葉使いがもっと上品だった気がする
「シット」とか「ファック」と聞いたことがないが当時もアメリカ人は日常会話に使っていて当時の現代劇映画の方がリアルじゃなかったのかもしれない

まず序盤は裁判でのやりとりが面白い
何度も笑ってしまった
裁判長が特に面白い
次に弁護士
特に好きだったのはボビーとハンプトンのやりとりに裁判長がクレームを付けるのだが弁護士が「野球の試合結果を伝えているだけです」とか嘘をつくところ

しかしそんなコメディー要素たっぷりの掛け合いも黒人に対する理不尽な酷い扱いで一変
とてもじゃないが笑っていられない
まっあれが黒かろうが白かろうが黄色かろうが河童だろうがヘチマだろうが不快な思いをしたことには変わりはない

最初はコントのようなお笑いで観客の心を掴み話の本筋とか確信に迫ると雰囲気はガラッと変わり状況はシリアスになり思わせぶりなBGMを交えヒューマズムに盛り上げていく
お手本のような映画といえる

最後はどうなるかと思ったがそれを観たら一瞬「えっ!?」と思った
でも実際の出来事を元にしているなら受け入れるほかない
アメリカでもありえないだろうし日本なら尚更ありえない強引なものだった
人によってはそれを感動ポルノなどと詰るかもしれない

暴動シーンがとてもリアルだ
流血だ
僕は子供の頃からブッチャーやテリーファンクで見慣れているから免疫があるが血を見るのが怖い人にはちょっとエグいかもしれない

デモ隊もいろいろなグループの集まりで烏合の衆
一枚岩ではない
それを保守は内ゲバというが実際人々は十人十色
保守だって色々考え方が違うのは現実
裁判の打ち合わせでも考え方の違いからか被告人同士でたびたび揉めたりする
気になったのはデモの隊の中で星条旗を掲げていた若い女性の内なる思い
それを知りたかった
デモ隊の中にはそれ気に食わない人たちもいて警察との衝突の際に内輪揉めになってしまう

アメリカでも戦争反対者は左翼認定されるらしい
日本の映画関係者は左翼が多いらしい
日本のエリート風を吹かせた知識人の殆どは左翼だ
しかし彼らは自己保身のためか学生運動していた過激派のグループを別物と切り捨てた
中には裏切り者と軽蔑するものがいるだろう
学生運動を懐かしみながら若気の至りと肯定的には感じられない
だから日本は左翼でありながら真正面に普通の彼ら側をリアルに描いたエンターテイメントに溢れた面白い映画をつくることができないのかもしれない
日本とアメリカではそもそも文化が違うので同じものが作れないとしてもだ

中国や韓国は国がお金出してくれると寺島しのぶは羨ましがるが本来映画作りとはそんなものではあるまい
脚本が本当に素晴らしければ国だろうと民間だろうと支援してくれる
文化だろうが国策だろうがヘチマだろうが国民の血税で無尽蔵に映画を作るべきではない
『シカゴ7裁判』は脚本が本当に素晴らしい

映画は本来映画館で観るもの
NetflixとかからスマホやiPadで観るものではない
時間がないとか詭弁である
ひろゆき動画や無料ゲームに没頭する暇があるのだから
コロナ禍に負けず映画館に出かけよう
映画館で『シカゴ7裁判』を見届けよう

野川新栄