「殖産興業に尽力した五代友厚の熱い思いを演じた三浦春馬の最後の名演」天外者(てんがらもん) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
殖産興業に尽力した五代友厚の熱い思いを演じた三浦春馬の最後の名演
江戸末期に生を受けた薩摩藩士の五代友厚が、近現代の日本経済の礎である殖産興業に尽力した波乱の半生を、当時の歴史的な偉人との交流を加味して、独自の創作で描いた青春群像劇の熱い作品。尊王攘夷から明治新政府に関わる富国強兵が歴史の表舞台とすると、30代前半に下野し政治の世界から商業の分野で活躍する五代の物語は題材としては珍しく、新鮮な気持ちで鑑賞出来た。ただ、生麦事件が引き起こした薩英戦争で捕虜になるエピソードなどの前半の面白さと比べて、後半の大阪商工会議所で初代会頭演説が批判を浴びせられる意味不明さが表す興ざめが作品全体の熱量を削いでいる。髷を自ら落としても侍の矜持とその精神をもって、日本社会のあるべき産業構造を構築した五代の思いは、主演三浦春馬の名演で十分伝わるだけに惜しいとしか言いようがない。アメリカ映画「フィールド・オブ・ドリーム」を彷彿とさせるラストシーンの、夜の帳が下りる道を提灯の明かりが覆う美しさが、もっと深い感動の心境に導き至らせるべきだった。
脚本、演出の描写力が弱い最大の理由は、制作費の少なさと言ってしまうと後がないが、例えば母親のフラッシュバックで描写される友厚少年の天外者振りを表す、世界地図から地球儀を作るカットは是非入れて欲しかった。この場面のように、過程が無く結果だけの描写では映画とは言えないと思う。映画らしい場面として良かったのは、実家の庭で髷を切る場面と、女将と対峙する料亭の場面ぐらいしか挙げられない。
しかし、映画の言わんとする、地位や名誉やお金のためではなく志のある目的に向かって取り組む五代の生き方は、今この時代の日本の政治家や実業家の皆さんの模範になるのではないかと思った。コロナ禍の或る意味鎖国状態での国体の維持や殖産興業の確保を再構築する時が来ていると思われる。
追悼
今年の個人的な最大の衝撃は、若くして才能を開花させた三浦春馬氏の突然の訃報でした。6年前の映画「永遠の0」とテレビドラマ「僕のいた時間」で初めて拝見した俳優さんでしたが、特に後者の演技には深い感銘を受けました。洋画に比べて邦画をあまり観ない立場で発言する無知を許してもらえば、それまでのお気に入りの日本の男優は、香川照之氏と加瀬亮氏の二人だけでした。漸く若い人でいい演技をする俳優さんに巡り会えた喜びと、「エデンの東」のジェームズ・ディーンのような繊細な表現が俳優としての真摯な姿勢を窺わせる驚きとで、暫くテレビドラマで追い掛けて彼の演技を鑑賞していました。特に真面目な題材の誠実な役柄に、人格的にも演技的にもその才能を生かし、素晴らしい演技を魅せてくれたと感謝を込めて称賛したい気持ちです。本当に残念でなりません。三浦春馬氏は、夭折の資格に生きた素晴らしい俳優でした。彼の熱い思いが込められたこの映画の演技は、いつまでも心に残ると思います。