「努力に裏打ちされた輝き 三浦春馬をしのぶ」天外者(てんがらもん) ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
努力に裏打ちされた輝き 三浦春馬をしのぶ
三浦春馬の所作は美しい。
以前WOWOWドラマ「ダイイング・アイ」を見た時、バーテンダーを演じる彼のシェイキングなど一連の動きの美しさと無駄のなさに驚いた。知人のバーテンダーに習ったり、バーに通ったりしてかなり練習したのだという。肩幅があってすらりと背の高い彼が指先まで神経の行き届いた所作を行なう様は、何とも言えずクールかつ上品な華やかさがあった。
本作でも、五代友厚が身につけていたであろうと言われる示現流の殺陣のシーンで同じ印象を持った。鞘を付けたままで相手を切らないが、彼が構えた時の緊張感からは美しさだけでなく、一の太刀に勝負をかける鋭い斬撃で知られる示現流の迫力が伝わってきた。これもきっと時間をかけて練習したのだろう。彼の所作の美しさは努力が結晶した美しさだ。
物語そのものは、2時間で五代の一生をさらっているためか正直端折りがちなところもあって比較的淡々と進む印象を受けた。三浦春馬が命を絶ったため、序盤で五代がはるに「命を粗末にするな」と言うシーンなど、どうしても気持ちがどこか現実に返ってしまう場面があった。もちろんこれは作品そのものの問題ではなく、私の姿勢の問題だ。
ひとつだけどうも受け付けなかったのは、大阪の吉村知事と松井市長がカメオ出演したことだ。事前に知ってはいたが、言われなければ分からないような登場の仕方だろうと思っていたら、結構なハイライトシーンで蓮佛美沙子を二人で挟んで立っているのが大写しになってぎょっとした(物語には全く絡まない)。撮影自体は昨年のうちに終わっているが、彼らにとって何とも微妙な時期に公開されたものだなあと思う。個人的に政治家がプロパガンダ映画でもないのにこういう首の出し方をすることは嫌いなので星が一つ減った。
ただ、それを差し引いても五代の魅力を観客に伝えるには十二分な作品だ。彼に関する史実の細かい部分はよく知らなかったが、とても興味がわいた。それはやはり三浦春馬が先駆的ヒーロー五代友厚としてスクリーンで生きているからだ。
エンドロールが終わると自然と観客席から拍手がわいた。五代を顕彰する作品としても、名優三浦春馬の熱演を堪能する遺作としてもその拍手にふさわしい作品だと思う。