「【”婦人科の先生はお父さんと同じ匂いがした・・” 孤独な心を抱えた男と少女の関係性の変遷を、静謐で抑制したトーンで描いた作品。二人の表情が、徐々に変化していく様に魅入られた作品でもある。】」この世界に残されて NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”婦人科の先生はお父さんと同じ匂いがした・・” 孤独な心を抱えた男と少女の関係性の変遷を、静謐で抑制したトーンで描いた作品。二人の表情が、徐々に変化していく様に魅入られた作品でもある。】
ー劇中、舞台は明確に説明されないが、ナチスドイツは滅び、代わりにスターリン率いるソビエト連邦が支配していた、ハンガリーである事は、容易に分かる・・。-
■印象的なシーン
1.クララが、父母と妹を亡くし、(彼女は父母は収容所にいる・・、と信じているが・・)トラウマ故に、学校でも、預けられたオルギおばさんにも、反抗的な態度を取っている序盤のシーン。
16歳になっても初潮が来ないクララを心配したオルギおばさんが、無表情な中年の婦人科の医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に診療を受けさせるシーン。
- 画面では、描かれないがクララがそれまで、過酷な人生を送って来た事が仄かに分かる。それは、アルドも同じであるようだ・・。
それまで、反抗的な態度を取って来たクララが、”別人のように”アルドの腰に抱き着き、暫く目を閉じているシーン。アルドも、その行為を黙って受け入れる・・。
二人が、深い哀しみを抱えている事が分かる。少し、涙する・・。-
2.その行為を見てしまった、オルギおばさんに怒られたと、クララが雨の日にアルドのアパートメントにやって来るシーン。
アルドは、彼女を追い返さずに、オルギおばさんに居所位は知らせようと電話をする。
そして、クララに風呂に入るように勧める。クララは”おばさんはお風呂なんて、贅沢だと言っていたけれど・・”と言いながらも、嬉しそうに湯舟に浸かる。幸せな気分の中、いつの間にか、一緒にニコニコ笑っている可愛らしい、妹も風呂に浸かっている・・。
そして、クララが、アルドの寝るベッドに、寄り添うように入って来るが、アルドは拒否することもなく、しかし、抱きしめる事もなく、眠る。
- この、二人の心持が、画面から伝わって来て、少し、涙する・・。-
3.クララは、アルドと住む中で、髭を剃るアルドが優しき父に見えたり、優しき母の姿も思い出す。
- クララ、漸く、心が休まる場を見つけたのだね。だから、今まで”封印していた優しき父母、妹の姿が自然と思い出されるようになれたのだね・・。-
4.アルドもある日、クララに”アルバムを見れば、私の事が分かるよ・・。私は、君みたいに勇気がないから見れないけれど・・。”と寂しそうに笑いながら、診療所に出掛ける。
そして、クララがアルドのアルバムをめくると、そこには彼が愛した美しき妻、可愛らしい子供たちと共に”笑顔”で映るアルドの姿があった・・。
クララの眼からは、大粒の涙が・・。
- このシーンは、参った。アルドが寂しげで、無表情である理由が直ぐに分かるし、クララも、アルドは自分と同じ”孤独な人なのだ。だから、私に優しいのだ‥”と言う事を涙と共に理解した事が分かるからだ。
5.ある日、アルドの診察 ー胸の触診ー を受けていた女性が、アルドの手に涙を一粒、落とすシーン。驚いたアルドに女性が言った一言。”久しぶりの感触だったから・・”
- このワンシーンも、印象に残った。この女性の哀しき過去が、直ぐに分かるショットである。-
6.アルドが、吹っ切れたように明るくなったクララが、学校のダンスパーティに出掛けるシーンで”口紅が濃すぎないか・・”と言ったり、迎えにいった時、クララにご執心だったぺぺに”あのチビが・・”と言ったり、すっかり、クララのお父さんのような態度になっている事も微笑ましい。
- けれど、クララはアルドへの想いが”微妙”に違うようだなあ・・。この辺りの抑制したトーンでの描き方が、とても良い。その後も、アルドの誕生日にケーキでお祝いをする、クララとオルギおばさん。二人を両脇に抱え、嬉しそうに笑う、アルド。
それまで、孤独を抱えていた三人の距離が近くなった事を示す、良いシーンである。-
7.アルドは、診察を受けた女性、エルジに電話をかけ、デートに誘う。二人は、且つてアルドがクララを連れて行った喫茶店にエルジを連れていき・・。
- この場面での、クララの時もそうだったが、笑顔を一切見せない、慇懃なウェイターが、絶妙にオカシイ。(あんた、若い娘からイロイロ連れてくるね・・、と思っているように見えてしまったのだよ)
楽しそうな、アルドとエルジの姿も良い。-
8.ある晩、アルドのアパートメントの前に車が止まり、男達の声が・・。アルドは、逃げる準備をするが、彼らは別の部屋の住人を・・。クララは、心配から喜びの余り、アルドの首筋に何度も、キスをする。アルドは、クララをソファに寝かせる・・。
そして、翌朝、クララに”今晩、女性を連れてくる・・”と告げる。泣きながら、オルギおばさんの家へ、戻るクララ。
- アルドが、クララと距離を置かなければ・・、と言う想いと、クララのアルドへの想い・・。ー
9.クララにご執心だったペペに対して、彼女が、徐々に心を開いていくシーン。
◆そして、3年が過ぎ・・
・クララは美しい女性に育ち、その脇にはペペが・・。アルドの脇には、笑っている、エルジがいる。少し老けたが、元気そうなオルギおばさんがいる。
その風景をじっと見ていた、アルドは・・。”いつものように”感情を隠すためにそっと、小部屋に入る。
- この時の、アルドの涙を必死に堪える”眼” ー
・それは、”皆が抱えていた哀しみが解放された事”に対するものなのか、
・笑顔の無かったクララが美しい女性に育ち、笑顔を浮かべている事に対する”父親”としての想いなのか、
・スターリン死亡のラジオ放送が流れ、喜ぶペペの姿なのか、それとも、スターリン亡き後のソビエト連邦が、自分が住むハンガリーに、どのように接してくるかという不安なのか・・
私は、彼のあの”眼”は、上記全てを包含した思いが去来した中での、涙を堪える目になったのであろう・・、と解釈した。
そして、オルギおばさんが口にした、”乾杯のセリフ”が、又、沁みた・・。
<人は、どんなに哀しい経験をして、愛する人を失っても、独りでは生きられない生き物なのだろう。
けれど、その哀しみを乗り越えるために、同じ哀しみを抱えた人たちが、不思議な糸で結ばれ、仄かな未来が見えてくるラストが、とても印象的な作品である。>
■蛇足
・クララを演じた、アビゲール・セーケと、アルドを演じたカーロイ・ハイデュクの抑制した演技が素晴しかった作品でもある。
(恥ずかしながら、お二人とも初見である・・・。)
・純粋なハンガリー映画は、「心と体と」以来であるが、ハンガリー映画は、私の嗜好に合うのであろうか・・。
NOBUさんへ
欧州映画大好きなbloodです!と言うか「欧州も」ですねw
欧州と言っても、スペイン・ポルトガルはイマイチで、ギリシャあたりは、ほとんど見た事無いですけどw
NOBUさん
二回目はじっくりとレイトショーで、通な愉しみ方ですね。
恥ずかしながら、映画館で再鑑賞、一度も無いです。。本当に好きな作品こそ、何度でも観たくなりますよね。(私はテレビ鑑賞での複数回ですが💦)
奥様の配慮がいいですね〜(^^)
映画鑑賞→読書、癒しです。
NOBUさん
コメントへの返信有難うございます。
レイトショーだと尚更余韻に浸れそうですね。大人な時間。
パンフレット、読みました。色々な想いを込められての撮影という事、作品からもしっかり伝わってきました。映像に溢れた透明感、好みの作品でした。
おはよ〜ございます🌤
観たい欲望をそそられるレビューです。
でも残念なことに私の近郊では公開されてないです😔多分今後もないような、、、😫
wowow放送まで我慢します💦
NOBUさん
アビゲール・セーケの壊れやすい陶器のような雰囲気が、作品にとても合っていました。未だ読んでいないのですが、数日後映画館に行った時に、パンフレットを購入しました☺️