劇場公開日 2021年5月7日

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「一度訪れてみたい祭のひとつになった」大綱引の恋 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5一度訪れてみたい祭のひとつになった

2021年5月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 薩摩川内市の川内原子力発電所には2021年3月現在、日本で稼働中の5ヶ所9基の原発のうちの2基が存在する。原発のない社会を作ろうというスローガンで2016年に県知事に当選した三反園訓は、その後立場を変えて、川内原子力発電所の再稼働を容認してしまった。鹿児島県の有権者がそんな裏切りを許す筈はなく、2020年の県知事選挙ではあっさりと落選し、鹿児島県で初めての1期だけの知事となった。

 本作品は原子力発電所や県知事選とは無関係で、川内大綱引を舞台に、地方の人々の人間模様を生き生きと描いている。佐々部清監督は映画「この道」や「八重子のハミング」で人の優しさを上手に表現していて、それぞれにとても感動した記憶がある。本作品ではまた一段と優しい人ばかりの登場するあたたかいドラマを見事に完成させている。返す返すもその早すぎる死を惜しむばかりだ。
 主人公の有馬武志を演じた三浦貴大は本作品のために体を鍛えたのだろうか。随分と逞しい体つきで、見た目からして地方の青年らしい。役作りは大したものだ。「八重子のハミング」で強くて優しい夫を演じた升毅が本作品では狂言回しの重要な役どころを担っていて、大綱引のアナウンスは見事の一言に尽きる。芸達者の石野真子、嫋やかな美人の比嘉愛未が脇を固めて、知英が武志の相手役ジ・ヒョンを務める。申し分のない配役である。
 川内大綱引の一番太鼓の役割は、他所者から見たら何の意味もないが地元では大役である。郷に入れば郷に従えで、こういう文化や価値観は尊重すべきものだ。価値は人間が創造する。それが人々に鬱憤のはけ口や楽しみを与えてくれるものならその価値は大きい。川内大綱引にはその両方がある。コロナ禍が終息して旅行が解禁になったら、是非一度訪れてみたい祭のひとつになった。

 川内原子力発電所はあと3、4年で稼働期間が40年になる。原発の寿命とされる歳だ。薩摩川内市の沖は中央構造線の西端に当たる。稼働中の原子力発電所を大地震や津波が襲わないことを祈るばかりである。

耶馬英彦