「二人の私の物語」パリのどこかで、あなたと しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
二人の私の物語
ポスターの雰囲気や粗筋から、叙情的で小洒落た大人の恋愛物語と勝手に想像していたら、思いの外表現や内容が現代風で、ちょっと意表を突かれた。
原題は『Deux Moi』、二人の私。文字通り、二人の【個体】が主人公だ。
二人の男女が、並び立つアパルトマンの、隣り合わせに位置する部屋に住んでいる。彼らは、互いに認識も交流もない。
各々の人生が代わる代わる、時に隣り合わせで写し出されるが、二つはすれ違い、交わる事はない。同じ音を耳にし、同じ風景を目にしながら、二人は互いに気付かない。
女は溺れた恋を忘れられず、生きずりの関係の中に自分を見失う。
男は人と関わるのを恐れ、孤独の中に自分を見失う。
性格も身の上も職業も異なる二人だが、共に心の傷と寂しさを抱え、都会の雑踏に埋もれて苦しんでいる。
セラピストが言う。
「自分に向き合い、自分を認め、自分を愛さなければ、他人を愛せない」
何処でも誰でも繋がれるネットワーク。溢れる物、溢れる人、インスタントに叶う欲望、垂れ流しの価値観。その中で、損なわれず、流されず、自分の形を保つのは容易でない。
自信と尊厳を胸に、寛容と愛情を持って、背筋を伸ばして前を向いた時、ようやく、同じように流れに立ち向かう、もう一人の【私】に気付くかも知れない。
さて、映画の終わり、遂に二人は、互いを見つめ、名乗り、手を取り合う。この後の物語は、果たしてどうなるのだろうか。
互いの住所を知って驚くだろう。部屋に招かれ、見知った猫の姿に、運命を感じるかも知れない。共んで同じ曲を聞き、魚沼産のお米を食べるかも知れない。過去の重荷を打ち明けて、涙し合うかも知れない。
異なる部分も多い二人は、いつか離れていくだろうか。補い合って添い遂げるだろうか。
そんな『その後』につい思い巡らせてしまうのも、この映画の楽しさのひとつだろう。