劇場公開日 2020年12月11日

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パリのどこかで、あなたと : 特集

2020年12月7日更新

【秀逸な設定】“出会わない”恋愛映画が誕生
良作を求める映画ファンにオススメしたい、注目の一作

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恋愛映画の定石といえば、例えば2人の男女(もちろん同性でもいいです)が運命の出会いを果たし、何らかの困難を乗り越えて結ばれる……という筋書きです。ところが12月11日から公開される「パリのどこかで、あなたと」は、一味違う物語を私たちに見せてくれます。

なんと主役の男女が、まったく出会わない――!

描かれるのは、隣り合うアパートメントで暮らす“面識のない30歳の男女”による、ガラス細工のように繊細で輝かしい恋の軌跡。良作を求め映画館へやってくる皆様に、とびきりオススメな作品が誕生しました。


【予告編】本当の愛を知らない、大人たちへ

恋愛映画なのに、主人公たちは出会わない
すれ違いがもどかしく、愛しい これはパリの物語――

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○パリ、隣の部屋、同じ生活圏 なのに2人はすれ違う

パリの下町に暮らすメラニーとレミー。メラニーはがんの免疫治療の研究者で、過去の恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を送っている。

一方のレミーは物流倉庫で働きながら、同僚が解雇されたのに自分だけが昇進することに罪悪感を抱えていた。ストレスからメラニーは過眠症、レミーは不眠症に陥り、それぞれセラピーに通い始める。

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2人が住んでいる部屋は別々のアパートメントだが同じ階の隣同士で、隔てるのは壁二枚だけ。出勤する時間も同じで、乗る電車も同じ、毎日買い物をする食料品店も同じ。入浴中に音楽をかければ換気扇づたいに聞こえてくるので、音楽の趣味もすっかり影響されてしまった。

同じような生活を営み、似たような悩みを抱えるメラニーとレミー。しかし、それでも2人は出会わない、すれ違う。メラニーはマッチングアプリで出会った男性たちと一夜限りの関係を繰り返す。レミーは職場で出会った女性とデートするも、距離を縮められずにいて……。

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○良作ぞろいのこの冬、映画ファンに特にオススメの一作

「運命の出会いは、きっとあなたのそばにある」。そんなキャッチコピーが、すきま風が吹く胸に染みわたります。

巨額の予算が投じられた大作映画が、軒並み公開延期となった2020年。一方で活況を見せているのがミニシアター系の作品です。大作映画がそもそも上映されていないため、例年にも増して観客の“上質な映画への欲求”がミニシアターに集中。結果、この冬は良作が次々と公開される、豊作の様相を呈しています。

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なかでも本作は、映画.comが自信を持ってオススメする一作。“出会わない恋愛映画”という設定のユニークさもさることながら、スタッフ、キャストともに注目の面々が結集し、珠玉のひとときを届けてくれます。


現代フランスを代表するクラピッシュ監督、待望の新作
見どころは繊細で、多層的な人物描写

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○セドリック・クラピッシュ監督 対象的なモチーフが連続する、興味深い映像美

フランス・ブルゴーニュ地方のワイナリーが舞台の芳醇な人間ドラマ「おかえり、ブルゴーニュへ」(2017)。スペインに留学した青年の心の成長を映した青春譚「スパニッシュ・アパートメント」(01)。迷子になった飼い猫を探す若い女性が、様々な人と出会い、少しだけ大人になる姿を描いたロマンチック・コメディ「猫が行方不明」(1996)。

セドリック・クラピッシュ監督の作品は日本でも人気が高く、今や彼は“現代フランスを代表する監督”と称されています。本作「パリのどこかで、あなたと」では、くすんだルックの儚い映像美を軸に、男女の感情の揺れと成長を丁寧に描出しています。

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鑑賞していて印象に残るのは、ひとつの画面に対象的なモチーフが並ぶこと。例えばメラニーがキッチンに向かうと、ドラム式洗濯機の扉の“丸”と、シンクや食器棚の直線的な“四角”が対置。メリハリとわかりやすさ(視認性)と美しさがそろった心地よい画作りによって、観客の心情をスクリーンのなかへ誘います。

そして今回のクラピッシュ監督の手腕で際立っているのは、対象的なモチーフの対置、その密度が凄まじいこと。目に見える物質だけでなく、概念やテーマやセリフにまでそれは及んでいるのです。筆者が感じ取れたモチーフの対置を、できるだけ羅列してみます。

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男と女。愛と無関心。過眠と不眠。焦燥感と充足感。朝と夜。解雇と昇進。雇用主と従業員。患者と心理療法士。地下鉄とアパートメントの上階。雪山とパリの丘。笑顔と涙。マッチングアプリと生身の恋愛。夢と現実。スウェット・シャツとパーティー・ドレス。ハイヒールとスニーカー。生と死。受容と疎外。承認と否定。民族音楽とEDM。オンビートとアフタービート。パリとハイチ。サッカーボールとペナルティエリア。ビールとワイン。陽気な家族と沈鬱な僕。親と子。ひとりぼっちと2人でいること。メラニーとレミー。

画面に宿るクラピッシュ監督の“想い”は、上記のものだけではないでしょう。あなたは、どれだけ感じ取ることができますか?


○メラニーとレミー 30歳男女の孤独と葛藤は、あなたにも無関係ではない

メラニー役は、フランスの映画・テレビ・演劇界で活躍するアナ・ジラルド。そしてレミー役は、第72回カンヌ国際映画祭で将来の活躍が期待される若手俳優に贈られるショパール・トロフィーを受賞し、人気急上昇中のフランソワ・シビルです。ジラルドとシビルといえば、「おかえり、ブルゴーニュへ」での共演も記憶に新しいところ。

2人が体現したのは、他者の気持ちを汲むことができる繊細で優しい性格ゆえ、心のバランスを崩してしまった男女の“孤独”。寂しさを紛らわすため、マッチングアプリやSNSで誰かとつながっても、実際に会ってみるとなんか違う。孤独感は逆にくっきりと縁取られ、家に着いたころには疲労感がどっと溢れ出して……。

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こんな悩みはフランス特有のものではなく、やっぱり世界共通の“あるある”なのでしょう。人間は大なり小なり、仕事や人間関係の葛藤を抱える生き物。だからこそ日本に住む“あなた”も、本作の登場人物に強い共感を覚えるはず。次の項目では、本作のテーマをもっと深く考察したレビューをお届けします。


【編集部レビュー】都会に住む同世代は共感必至…
“他者や異文化との出会い”が、人生を豊かにする

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映画.comで最もフランス映画に造詣が深い女性編集者が、現代フランスの情勢を解説しながら本編レビュー。これを読めば、本作がもっと“大切な映画”になるはずです。


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30歳、地方出身、定職に就いているが将来に不安を抱え、ライトな話をする友人や同僚はいても心を許せるパートナーはおらず、家族や田舎ならではのしがらみを考えると地元には帰りたくない。孤独を紛らわそうとSNSやマッチングアプリを始めてみるも、楽しさよりも虚しさを感じてしまう……自分の人生、このままでいいの? 都会に住む同世代に共感必至、等身大の恋愛映画がフランスから届いた。

フランス北部鉄道のターミナル、北駅ほど近くのメトロ駅スターリングラードで、互いの存在を知らず、隣接したアパルトマンに住むメラニーとレミー。パリのシンボル、サクレクール寺院が後方から彼らの住まいを見下ろすが、外国人がイメージする花の都とは一味異なる下町だ。東京であれば、日暮里や田端付近の雰囲気が近いだろうか。

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線路沿いの最上階(一般的にフランスの古い集合住宅はエレベーターがない高層階の方が家賃が安い)の窓の外から見えるのは、朝から晩までひっきりなしに行き交う長距離列車と描き殴りのグラフィティ。ともすれば騒音とも捉えられるが、ふたりの故郷方面に向かう電車の走行音は、都会の生活の孤独を和らげているようにも見える。

本編ではふたりの性格や趣向、ライフスタイルを生い立ちから丁寧に描写。我々観客は、似たもの同士であり、物理的にも一番近くにいるふたりが、まったく出会うことができないもどかしさを感じる。しかし、この時間の長さこそが、見知らぬ者が簡単につながれるようになった時代に、本当に大事な人に出会うために必要な過程なのだ。往年のクラピッシュ監督のファンには「猫が行方不明」へのセルフオマージュのような設定にも心躍るだろう。

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また、フランスは失業率が高く、解雇されたレミーの同僚たちが、黄色いベストを着ていたり、レストランではなく屋外でのテイクアウトのランチを摂っていたり、ふたりの住む街が、アフリカやアラブ地域などからの移民街でもあるのも注目したい。そして、ふたりの仲介役を果たすのが、中東系の店主が営む食料品店だ。世界各地の良いものを薦めるという店主のモットーが、他者や異文化との出会いが人生を豊かにする、という本作のテーマと「スパニッシュ・アパートメント」でも描いてきたクラピッシュ監督の思いを体現している。

フランス人といえば、自己主張が強いというステレオタイプがあるが、ふたりは控えめで、他者に合わせがちという性格であることも、我々日本人が共感しやすいポイント(実際に彼らは食料品店の店主から日本の米を薦められるのだ)。

Netflixの人気新シリーズ「エミリー、パリへ行く」が、外国人の目を通した、シャンパンの泡のようなキラキラしたおとぎ話だとすれば、こちらは現代のパリ住民が紡ぐ、“リアルな”とある日常。単調な日々でも、無理して自分を変えなくても、もしかしたら明日は彼らのように素敵なことが起こるかもしれない……見る者にそんなささやかな希望を抱かせてくれる一作だ。(映画.com編集部)

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