「あ〜あ、もったいない!!」由宇子の天秤 osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
あ〜あ、もったいない!!
とにかく役者たちがの演技が、皆んな真に迫っていて、本当に素晴らしかったのだが…
徹底した長回しの映像と手持ちカメラによる微妙なブレ感も、この作品を観る側が主人公のドキュメンタリーを観ているような感覚にもなり、まるで入れ子構造の如く、ドキュメンタリー番組を作っている主人公のドキュメンタリーをこちらは観ているような仕掛けになっていて、
それによって緊迫感も持続して、アレよアレよという間に時間も駆けて抜けていく。そのストーリーは主人公の視点だけで進んで行き、いわゆる神の視点が無いため、より一層と主人公の現実世界の中へ嵌っていく。その主人公を演じる瀧内公美が、あまりにも素晴らしいのだが…
あれだけ芝居が良くて、題材も良くて、映像も良くて、劇伴がないのもこれまた良くて、しかし、なのに、なのに…
あのプロットでは…
あまりにも本当にもったいない!!
予想外のベタな展開には、えええ???となってしまった。
インディーズ映画にしては、ストーリーに捻りというものが無さすぎる。
あえてリアルにしたくて、あんな凡庸で有りがちな展開にしたのだろうか?
あの教師のお姉さん(?)が、何か重大な秘密を隠しているのは明らかだったが(これも演技が上手すぎるゆえ)まさかアレほどベタな展開にしてしまうとは…
(火サスじゃあるまいし、教師のスマホなんぞ真っ先に警察が調べるに決まってる。というか、あんな赤裸々音声データをデリートせずに自殺なんて無理筋だ。どうせ無理筋なら疑っていた姉が盗聴器を仕掛けたくらいの設定にしないと!)
そして、ベタとはいえ、あのプロットにした以上、あのシークエンスこそ、報道とは何か?というテーマを抉り出して、まさに「由宇子の天秤」が試される絶好の機会と、本当はなったはずだ。
あの時点で相当なインパクトの事実誤認があったとなると、それはイコール重大スクープであり、視聴率の低いハードなドキュメンタリー番組ではなく、高視聴率のワイドショーのネタとなり、それはスクープゆえ一刻も早いオンエアをTV局の編成側は要求するはずで、そのネタのコンプリート版となる由宇子たちの撮ったドキュメンタリー(本当の事実を追加)もオンエアを早くさせるよう調整することも出来たはずだ。
それは、あの時点において由宇子が最も望んでいた事とも合致することになる。
しかし一方で、そのオンエアによって、本当に取り返しのつかないくらい壊滅的なダメージを遺族たちに与えてしまう事にもなったはずだ。
それくらいギリギリのヒリヒリするような葛藤が、あのシークエンスにおいて、全く出てこないというのは、本当にダメだ。というか本当に有り得ない。本作で一番スリリングでクライマックスな場面となったはずなのに。
どちらか片方へ均衡が崩れてしまうかもしれないハラハラとしたサスペンス感や破滅スレスレで綱渡りするような緊張感が「天秤」というほどは無かったのが、本作の一番ダメなところだったと思う。
由宇子は「側って何だよ?」などと言い返し、このままだったら自分たちも先生を追いつめたマスコミと一緒だ!などと言い放ち、報道番組におけるコンテンツ作りより大切な事があると言いたかったようだが…(メディア批判も表面的だ)
そんな簡単に天秤が一方に偏っちゃダメに決まってる。もう片方には女の子の命がかかっているのだから。
その後の交通事故もホントにベタだが、まさかラストまで、あんなベタというか、あの娘の父親が何処かで暴走しそうな予感はしてたが…(これも役者が上手すぎるゆえ)
あんな訳わからん展開にしてしまうとは…(せめてDNA鑑定くらい考えるだろフツー)
真実より自分の家族の責任にして医療費を肩代わり?自分が追い詰めた末の事故だから?だとしても、それも無理筋だ。
事故の賠償金を払いたいなら、真実とは別に負担すればいいだけのこと。
結局のところ、どうしても、あのラストを撮りたかったから?
だとしたら、ホントにベタすぎ。まさに御都合主義。
直前の由宇子の真横からのショットが、あまりにも素晴らしかったので、何とも本当に残念でもったいなかった。
とにかく瀧内公美は本当に素晴らしい。大好きになってしまった。
まさにフィルムに愛されている女優(この映画もデジタルかもしれんけど)。
この作品によって彼女は間違いなく時の人だろう。「情熱大陸」にも直ぐに出てきそうだ。
兎にも角にも、この監督の次回作ではなく、彼女の次回作が無性に観たくなってしまった。
あ、あと、あの医師の役だった池田良、彼もかなり気になった。20代後半まで外資系コンサルで働いていたらしいが、元同僚のような親近感を個人的に勝手に覚えてしまった。こういう俳優がもっと活躍してくれることを期待したい。
そして最後に一言だけ。
やはり伏線の放棄はいかんよ。
その手の映画もチラホラと見かけるが、サスペンスで伏線を回収しないなんて、絶対NGに決まってる!