「エンタテイメントスリラー。」由宇子の天秤 m.m ex 熊谷ぴあのさんの映画レビュー(感想・評価)
エンタテイメントスリラー。
比較することに意味があるかわかないけども、例えば「パラサイト半地下の家族」は主な撮影に77日かかっている。 「由宇子の天秤」パンフレットの監督自身の撮影日誌によると、この映画は全ての撮影を14日間で撮影しなければならなかった、そうだ。
事前のリハーサルは行ったようだが、もし、この映画に、せめて4週間の撮影と予算があれば、さらに影響力のある作品になったことは間違いない。この映画にすでに寄せられている絶賛を見ると、余計にそう思ってしまう。
物足りない、ということではない。
素晴らしく練られた脚本であり、映像、演出、演技、音声、美術、全てにプロの仕事がなされたもので、自主映画とは全く次元の違う、エンタテイメントスリラーである。
大きな2つのストーリーが同時進行する。
そのどちらも、由宇子目線で物語は進行するのだが、彼女の立ち位置が全く違うのだ。
片方は、彼女が隠蔽された事実を追う側であり、もう片方は彼女自身が事実を隠蔽しようとする側に置かされる。周りの嘘にも翻弄され続けるが、彼女自身も時に嘘をつく。登場人物すべてが、嘘ではないにしても、知っていたことを言わなかったり、言えなかったことが、誤解を生じさせる。
それらの嘘や隠蔽のほとんどは、悪意によるものでなく、自己防衛だったり家族への思いやりを原因とするもので、我々の日常に起こる嘘や隠蔽と全く同質のものだ。だから、見ているこちらが物語に引き込まれていく。普段はその感情の行先を決定してくれる音楽さえない。(笑)
「今、どっちに感じればいい?」と問いかけ続ける150分になる。
自宅から近い上映館が高崎シネマテークで今日観てきたのだが、なんと高崎での撮影がメインだったそうで、行く直前にその情報を知った。 群馬に近い場所に17年ほど住んでいるが、群馬県は文化レベルが高い地域という認識なので、それを聞いて妙に納得した。
素晴らしい映画なので沢山の方に観てほしい、と思います。
太田光さん。野村邦丸さん。日大芸術学部が作った映画とも言えますよ。宣伝してくださいな。