「これはいい天秤」由宇子の天秤 デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
これはいい天秤
2時間半あったらしいんだけど長く感じない。脚本が巧みで、退屈だと思う瞬間がほぼなかった。ドキュメンタリー番組の取材と女子高生の妊娠に関するあれこれが同時に進行していき、どちらにも新展開があって、そのタイミングが絶妙。
最後だって、ある人物があることを言い出すのと、知らせが入るのと、順番が逆だったらまた少し意味が違ってきていた。この順番だったから、エンドロールを静かな気持ちで眺められた。
いい人も悪い人もどっちもこの世に本当はいなくて、みんな常に真ん中というか、何かと何かのバランスを取りながら生きているのだなあ的な、まさに心の“天秤”の存在を思う。
そうは言っても由宇子がいい人であってほしいと願いたくなる、魅力的なキャラクターだったから面白く見られたところはある。登場人物のかわいさと、ストーリーの硬質さや深遠さとを、映画がうまく両立させてくれたおかげ。トレードオフになりやすい2要素なのに並び立っていて、それこそ“天秤”がいいところで均衡を保ったなっていう感じがする。脚本の勝利だし、瀧内さんの勝利。
瀧内公美さんのルックスを嫌いな人はまずいないと思うけど、お芝居もまた素敵だった。話し方がとても由宇子。由宇子って人を私は今日初めて知ったわけなんだけど、彼女らしいと思った。彼女がカメラを回すと、そのカメラが捉える人は口を開いてしまう、どんなに話しづらいこともなぜか話しだしてしまうという、半ば特殊能力のような職能持ち。モスグリーンのコートも煙草も車の運転もやたら似合っていて、人たらしで気さくでそれでいて下品ではなく、出てくる女性が60歳だろうが10歳だろうがことごとく彼女にほだされ心を開いていく、それも納得できる。
上映後、パンフレットを買うと最後に心がすっきりする仕掛けがあると監督が案内していて、欲しいなと思ったけど、ロビーが大混雑すぎて買えなかった。誰か内緒で教えてください。あの子の笑顔とかかなと想像しつつ。