劇場公開日 2020年10月2日

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「破綻父娘の再生」オン・ザ・ロック かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5破綻父娘の再生

2025年5月5日
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ソフィア・コッポラに言わせると本作はとてもプライベートな作品らしい。要するに、お父様フランシス・F・コッポラとの父娘関係を映画にトレースしたということなのだろう。とすると主人公ローラ→ソフィア、その親父フェリックス→フランシスの分身てことになるのかな。そのローラ役にクインシー・ジョーンズの実娘ラシダ・ジョーンズをキャスティングしているところに、ソフィアらしいセンスの良さを感じる1本だ。

フェリックス役には、いつも酒を飲んで酔っぱらってるように見えるビル・マーレイが演じているのだが、この人根っからの自由人なのか、俳優のくせに専属マネージャーを付けていないらしい。ゆえにスケジュールを抑えることが大変難しい“ボブ・ディラン”のような俳優さんなのだ。『ロスト・イン・トランスレーション』以来のタッグだそうなのだが、今回はあくまでも役ありきのキャスティングらしい。

“ON THE ROCKS”をググってもらえばお分かりいただけるのだが、🥃の飲み方以外にも、“座礁して”とか“破綻して”とかいう意味が他にあるらしい。あらすじを簡単にまとめると、出張の多い旦那の浮気を疑ったローラが、外に女を作って家族を捨てた過去がある父親フェリックスに相談した結果、浮気調査のため二人でこっそり旦那をストーカーする、といったお話になっている。

一見すると本作タイトルが旦那とローラの破綻しそうな夫婦関係を暗示しているような印象を受ける。が、実はこの映画、過去に実際“破綻”した父親フェリックスとその娘ローラの和解をメインに描いているのだ。画商をしているらしいフェリックス、思わず笑ってしまうほど顔が広い。尾行の際のスピード違反も、取締り警官の父親をフェリックスが知っていたことが判明した途端、見逃してくれちゃったり…

有名人を親に持つと何かと比較されて嫌な思いをすることが多いとは聞くが、この映画はその逆で、顔の広いフェリックスのおかげでセレブ気分を味わったローラのまんざらでもない様子がさりげなーく描かれているのである。これがパリス・ヒルトンやキム・カーダシアンのように露骨過ぎると嫌味でしかないのだが、育ちの良さげなソフィアならではの“さりげなさ”が実に心地よいのである。

お互い映画監督として忙しい日々を送っている二人だけに、父娘らしい思い出は普通の家庭よりもずっと少なかったはず。思い出話を聞かれた時ソフィアは決まって、ディズニーランドの駐車場に🚁を無断着陸させた笑いばなしを持ち出すのだが、おそらく数少ない思い出話の中でもとっておきのネタなのだろう。父親らしいことは何一つしてやれなかった娘ローラのために、本作のフェリックスもまた何か思い出に残ることをしてあげようと今回思い立ったのではあるまいか。

旦那が浮気しているかどうかなんてのは二の次で、家族を捨てた贖罪の気持ちを何とか娘にわかってもらいたい、その一心だったのではないだろうか。お嬢さま育ちのソフィアらしい、娘にとってなんとも都合の良いリッチな父親像が本作には描かれているのだが、モネやホイッスラーの絵画なんか見たことも聞いたこともないプアホワイトにとっては、ちょいと鼻につく演出なのであるが…

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かなり悪いオヤジ