劇場公開日 2020年12月11日

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「意外にホラー要素も感じ取れる一作。」ハッピー・オールド・イヤー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0意外にホラー要素も感じ取れる一作。

2021年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

タイでもミニマリスト思想と結びついて、「断捨離」が普及していた、というちょっとした驚きから入る本作、意外に「恐怖」の映画でした…。

主人公ジーンは、さっぱりとした服装に身を包んだ、まさに典型的なミニマリスト。自宅を仕事用のスタジオに改築しようと、個人事業を営んでいる兄と共に自宅の「断捨離」に取りかかります。ジーンがゴミ袋に関するちょっとした格言めいた言葉を呟きつつ、積み上げた「過去の遺物」は大型トラックが必要なほどの量に。だがリフォームを手伝ってくれる建築デザイナーの友人とのちょっとしたいさかいをきっかけに、それら「ゴミの山」に向けたジーンの視線が変わりはじめ、彼女はある行動を決心します。一連の過程を、ナワポンタムロングラッタナリット監督は、まさに無駄なく軽やかに演出しています。

本作において、ジーンはもちろん、その母親も元恋人も、「過去に折り合いを付けることができなかった人々」として描かれます。彼らは過去に囚われ、何とかそこから踏み出そうとするのですが、結局引き戻されてしまいます。「適切に折り合いを付けることができなかった過去」が彼らに亡霊のようにまとわり続け、現在の関係を崩壊させていくのです。

結末近くのジーンの行動は、確かに理解できない人も多いでしょうが、「折り合いを付けられなかった過去が亡霊となって復讐する」物語、として捉えれば、何となく理解できたような気がしました。ただそうなると、ジーンの選択した行動は決して間違ったものではないが、その末路は物語が始まる以前に既に決定されていたとも言えるわけで…。この「あらかじめ運命が決められていた人々の物語」という語り口に、アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』(2018)を勝手に連想して一人で怖気を振るっていました。

映像面では、意図的に彩度を抑えているためか、全体的に簡素で落ち着いた調子です。一方で光の使い方が素晴らしく、特に逆光気味の上方からの光が人物の横顔を美しく捉えてた映像は、まさに「ポートレート」だと感じました。

yui