ヒトラーに盗られたうさぎのレビュー・感想・評価
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10歳の亡命日記
ナチス政権発足前夜にドイツから亡命し、スイス、フランスを経てイギリスに渡った一家の物語。そのままドイツに留まっていたら。フランスに留まったままドイツ敗戦を迎えていたら。まぁ、イギリスに渡っていて、本当に正解だったとしか言い様がありません。
"Auf Wiedersehen" 想いの詰まった者たちに別れの言葉を掛けるアンナ。電話は家政婦のハインピーからのものでしたが、別れの言葉は言えませんでした。「Bis bald!」(またね!)って言いたかったのに。
「亡命者にサヨウナラは付き物よ」なんて大人びてカッコいい台詞、10歳の女の子の無邪気な言葉であったとしても切ないもんです。スイスを後にする時の親友との別れの場面。二人は赤ん坊の様に毛皮にくるまって、敷物の様に床に転がっていました。ここを動きたくないよ。
1フラン分の冷たさ。15フラン分の屈辱。タダの施しを受けると怒るパパ。
なんか、既視感あるんですけど。邦画の「戦時中の疎開もの」なんですかねぇ。
「ヒトラー」と言う言葉に、もっと悲惨な物語を予想していたので、正直、肩透かし感はありましたが、沁みるものはありました。
逆境を力に変えるポジティブな家族がいた
絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を映画化したとのこと。彼女のことはまったく知らなかった。
時は1933年、新聞やラジオでヒトラーを批判してきた批評家の父は、来る選挙でヒトラーが勝つことを危惧し、家族を連れてスイスに逃れた。ユダヤ人の家族だった。
持ち物はひとつだけと言われた9歳のアンナは大好きな『ももいろうさぎのぬいぐるみ』に別れを告げた。
父親が職を求めてスイスからフランスはパリへ、そして早くも1935年にはイギリスへ渡った。その後の戦争やホロコーストを知る由もなく、偶然とはいえヒトラーも追いつけないスピードであの時代を駆け抜けた。
作品のタイトルから悲惨な内容を想像していたのだがまったく違った。逆境を力に変えてしまうポジティブな家族がいた。
いい気分で帰路についた。
ナチス政権下でのユダヤ人一家の苦悩
ヒトラーのナチスが政権を取る1933年に選挙直前にドイツ・ベルリンからスイス・チューリッヒに亡命し、仕事が無いのでフランス・パリへ移住し、その後イギリス・ロンドンへ移った両親と兄、妹の4人のユダヤ人家族の話。
妹アンナはベルリンからスイスへ亡命する際クマとウサギのぬいぐるみの1つしか持って行けず、ウサギを置いて出た。ヒトラーが選挙に勝った翌日この一家が住んでた家と家財は没収された。その為この題となった。
アンナは絵を描くのが好きだったのに加え、スイスで訛りのあるドイツ語に慣れたり、フランスでフランス語の作文が優秀賞を取ったり、といく先々での順応性の高さを見せる。
絵本作家になった人の実話をもとに作られた作品。
アンナ役のリーバ・クリマロフスキがめちゃくちゃ可愛かった。
少女目線の「戦争」が分かりやすく描かれていました
2020年12月31日@シネリーブル梅田
ヒトラーに批判的な父を持つリーバ・クリマロフスキ演じるアンナが家族とともにベルリンを離れ、スイス→パリ→ロンドンへと亡命する中で、様々な人や物との別れを経験しながらも、懸命に生きていく話です。
悲しいシチュエーションにも関わらず、前向きに生きる兄妹に惹かれました。
まず、この映画は戦争物ですが、ヒトラーはもちろん、軍服や戦争シーンも出てきません。おそらくアンナが戦場を知らないからなのでしょう。アンナ目線で広げられる映画が全体的にポジティブというかゆるっとしているように見えました。
本作で、「ヒトラーに盗られたうさぎ」がどういう意味を持つのかですが、
うさぎの人形とは、アンナのお気に入りです。それは、彼女が生まれ育ったベルリンの家、使用人のハインピー、アンナの名付け親のユリウスなどを意味し、ヒトラーの弾圧によって失ったものを指すのでしょう。
また、アンナが亡命するたびに大人びしていくという印象を受けました。
大人の気持ちを考えて言葉を飲みこんだり、大人の喜ぶよう騙されているフリをしたり、思いの詰まった場所に別れを告げてまわるアンナの姿や、いつかは帰れると指折り数えていたアンナが過去を捨てるシーンが印象的でした。
あとは余談ですが、アンナを演じたリーバ・クリマロフスキのパーマが可愛いです。
亡命先の街並みの風景が綺麗でした。
アウフヴィーダーゼーン
子役に救われた
188本目。
年明けに観ようと思ってたら、今日で上映終了。
最後に観るには重いかなとは思っていたら、ちと違った。
時代に流されているとは言え、ドイツ国内にいなかっただけ、まだ幸せだったのかな。
うさぎがあれだけ?とは思ったけど、アンナ役の子に救われた感がある。
子ども視点の亡命
最後の方に女の子が、家がないのだから家族は離れ離れになってはいけない!とお父さんに力説。その後、家族4人でイギリスに渡る。
彼らは難民とも言える。
難民申請して認められるかどうかはともかく…
お父さん役の俳優さんとても良かった。
文科省推薦の良い映画
ベルリンで暮らすユダヤ人一家が、ヒトラーの社会民主党が選挙で政権を握ることを予想して、故郷を後にして他国に亡命する。その一家の少女の話。
最初はドイツ語圏のスイス(ハイジが出てきそう!)に、次はパリ、最後にイギリスと、日本人憧れの場所ばかりで羨ましくなってしまうけど、いつかユリウスおじさんやお手伝いさんのハインピーのいるベルリンに帰れると信じている少女には次々降り掛かる苦労でしかない。
ベルリンでは生活が豊かだったのに亡命先では仕事がなく家賃も払えず、泉に投げられたコインを集めて電球を買うような生活の中で、しかし主人公の両親はとてもクレバー。特にオリバー・マスッチ演じるお父さんが良い。主人公の女の子のキリッとした目も映画のポイント。
ユリウスおじさんにエッフェル塔から飛ばす赤い風船は泣ける…。
貧しい割に、女の子はずっと何か食べてるんだよなー。
たくさんの「さようなら」
ジュディス・カーの『おちゃのじかんにきたとら』は大好きな絵本です。親から与えられたのでなく、自分が親になって息子に買ったもの。といっても、絵本に疎いので、子どもの年齢に合わせて毎月絵本を送ってくれる長崎県の素晴らしい本屋さん「童話館」のサービスを使った。毎月送られてくる絵本は日本のもの、外国のもの、絵もお話も美しくて面白くてちょっと怖いのもあって、一番楽しみにしていたのは私だった。
だから、この映画を見た。こんな子ども時代を過ごした人だったのか。
お腹をすかせたとらが突然お家に来て、そんなとらに何でも食べさせて飲ませてあげるママと娘。パパがあの「帽子」かぶって帰宅。でもとらが全部たいらげたから、夕食もつくれません。何にもないならレストランに行きましょう、とパパ。いつとらが来てもいいように準備しておくママと娘。でもとらはもう来なかった。一番最後のページはとらが沢山の「さようなら」を言ってる絵。その意味が、この映画のおかげでよくわかりました💧
ユダヤの人々と子どもたちの逞しさと前向き志向、教育に重きを置く生き方が目の前に本当に繰り広げられた。ラテン語が勉強できる学校に行くこと、年号だけ覚えるのは歴史の勉強じゃないよ、パパもそこでナポレオンについての本を読み直す、どんな絵でもいいよ。そして豊かな文化ー音楽と演劇と絵画と文学ーに溢れていた20年代のベルリン。トーマス・マンのサイン本まであるなんて、アンナの父親の一生も知りたくなった。
それにしてもスイスドイツ語はすごかったw。アンナの挨拶が標準ドイツ語なのに笑われて!連邦レベルでの女性の参政権が認められたのが1971年である国=スイス。当時、共学でも男女別々に遊んで、歩く場所も異なってたってわかる気がする、というか、活発で賢い、都会っ子のアンナがどんなに戸惑ったか!
行った先々の最初の食事がチーズというのも笑えた!スイスもフランスもチーズが美味しい国なのに。でもエスカルゴさえ食べられるようになって逞しくなっていくのが(マックスえらい!この子は頭がいい!)移民や亡命者なんだと思った。
カロリーネ・リンク監督は、子どもと親の関係を描くのがすごく上手い。特に、娘と父親に焦点をあてたら右に出る人いないと思った。この映画、そして「ビヨンド・ザ・サイレンス」。
追記
子どもを育てることで、自分のこれまでをなぞることができた。子育てで自分の子ども時代をもう一回体験できたことを、この映画でなぜか思い出した。
悲壮感のないヒトラー映画。
祖国ドイツから避難するユダヤ人一家の自伝みたいだけど悲壮感は一切なし。逃亡先のスイスでもフランスでも極貧にはなるがこれなら恵まれた生活だったのではないか。情勢を早く判断するとこんなにも流れがかわるのかと…。前向きなラストも良かった。
ある家族
鑑賞前は、少女の眼を通して悲惨な戦争を描いた作品かと思いきや、全く肩透かしをくらった内容だった。これといって危険な目や戦争そのものを描いてはおらず、ましてやナチスさえ出てこない。ちょっと面食らってしまった。あまりにもストーリーが平和過ぎて。かと言って、それ程、退屈せずに済んだのは脚本が良かったからかな?流浪の民といった言葉がピッタリ当てはまる、ある家族を描いた作品でした。
これは亡命できるくらいお金持ちの場合のお話。 ナチスの活動が活発化...
これは亡命できるくらいお金持ちの場合のお話。
ナチスの活動が活発化する前に機転きかせ逃げた一家は、ドイツに住むユダヤ人と比べると数段幸せなものなのだとは思う。
アンナが亡きおじさんの懐中時計を受け取ったとき、何故スイスで最後におじさんに会った際、ヘソを曲げて懐中時計にフッと息を吹きかけなかったんだろうと、悔やまれてるシーンが一番印象に残ってます。
とってもいい映画でした・・・
詩的で、美しくて
家族が温かくて。
逆境のなかでも。
お父さんも女の子も、お兄ちゃんもお母さんも
叔父さんも、友達も
みんな素敵でした。
ドイツのぬいぐるみってね、
本当に素敵なんですよね。
昔他の子が持ってたドイツ製のくまのぬいぐるみが
どうしても欲しくて
輸入してまで取り寄せてもらった幼い頃のことを思い出しました。
友達におすすめしたい作品です。
子供達の折れない心
ナチスドイツのユダヤ人弾圧をテーマにした物語は数多くあるが、こういった形の受難もあったのだと知らされる。
1933年、ユダヤ人で反ナチス派のケンパー一家は、次の選挙でのナチスの台頭を恐れ、いち早く国外脱出を企てる。幼いアンナに持っていく事の許されたぬいぐるみはひとつだけ。後から送ってあげますよ、と、乳母の宥める言葉を信じて、残りを置いて旅立つアンナだが、やがて逃亡先のスイスで、家財は没収され、父には賞金がかけられたと知る。ドイツに帰れるあてもなく、フランスへ、イギリスへと、長引く亡命。私の友達のうさぎは、ナチスの倉庫で大事にしてもらえているかしら?
子供の欺瞞のない視線は、戦争や差別の不条理に率直な疑問を投げ掛け、忍び寄る悪意と疑念に怯える。
本格的な弾圧が始まる前にドイツを離れた家族を追う物語に、他のナチスもの程の直接的な残虐表現はないが、国内に残った叔父からの便りが、じわじわと不穏さを増し、絶望に追いやられていく、ユダヤ人達の苦難を思い巡らさせる。
ましてや私達は歴史を知っている。
国家間の関係悪化を警戒したヨーロッパ各国はあらかた、ナチスの弾圧を初め黙認し、逃亡者が増え始めると、移民問題から入国を拒んだ。キリスト教圏であるヨーロッパでは、ユダヤ教に対する嫌悪や差別も強かった。ユダヤ人達の多くは、収容所移送を免れても、行き場なく彷徨う他なかったのである。
パリはやがてドイツに陥落し、ロンドンは空襲で焼け野原となる。それらを思い起こすと、観客の私達は、ケンパー家族や街の人々の行く末を、祈るように案じざるを得ない。
しかし、本国で築いた地位や収入とのギャップに苦しみ、プライドや慣習に振り回される両親を追い越して、子供達はそのしなやかな若い心と頭脳で、苦難の中を逞しく生きていく。ようやく慣れた居場所を捨てて、一からやり直さないとならないとしても、次の国のチーズの奇妙な味に思いを馳せ、言葉もすぐに覚えるわ、と言い放つ。そして家族は、手を取り合って、終わりのない旅路を進んでいく。
今、時は正に変革の時代。変わる事に二の足を踏み、戸惑うばかりの我々大人は、その柔軟さと勇気を少しばかり分けてもらって、立ち向かう為の心の灯火としたいものだ。
心温まるファミリー映画
背景が迫害なファミリー映画
大体にこにこみれます
主人公が子供でただただ健気に頑張るんだけど糸が切れるとかウワーってなる瞬間があって、その理由と描写がめちゃめちゃ悲しい
自分は犬が忘れられそうにない
アンナが手に入れたものとは?
ドイツ、スイス、パリ、ロンドン が舞台。スイスの広大な山々の景色はため息が出るほど美しかった。
私からすれば憧れの土地を転々とするアンナ。
しかしアンナの引越しはワケが違う。家族と共に言語の異なる地で逞しく、明るく、強く生き抜く。
そんなアンナがヒトラーに盗まれたものはウサギだけではない。家政婦のパインピーだって、ユリウスだって…。だけど、アンナが手に入れたものは?盗まれたものよりも大きいはず。
本作で再認識したことだが、子どもの柔軟性と吸収力は目を見張るものがある。
そして私がもう1人注目したのは、アンナの母、ドロテア。
ドイツにいた頃はお手伝いさんを雇い、夫人として何不自由なく暮らしていた。彼女が子どもを2人連れてスイスに入国するシーンや、パリでの貧乏生活にも屈することなく家族を支えるシーンからは、環境の変化により柔軟に変化し、強く、逞しく、美しく、しなやかに生きる彼女の姿には、勇気をもらえる。
プロレビュアーが書かれているように、withコロナの激動の時代に相応しい、前向きになれる良作ではないだろうか。
うーむ、なんだろ?響かない
絵本未読、モデルの作家さん情報皆無で鑑賞。
ユダヤ弾圧始まる前に亡命した家族の道程を
描いた映画。
それだけなんだよなぁ、残念ながら。
それ以外を受け取ることができませんでした、本作品からは。
うさぎはなんの象徴にも使われるわけではないし、
裕福に過ごしていた家族が、困窮の中でも家族愛を
失わず、心の豊かさを失うことなく、前向きに
生き切りました!
ってだけなんだな。真面目に。
俳優陣良かったけど、卑屈な僕には裕福に過ごしてた
家族の生活レベルが落ちていくたびに、状況を理解
しようとしない子供達の我儘が目に余ったり、
結局、裕福だからそれできたんでしょ?
みたいな目線で見てしまう。
ドイツから出たくても出られなかったユダヤ人達の
苦労、これから味わうであろう苦難を考えると、
「は?」
な感じなんです。
もちろん、本作品は何らかの苦労アピール話では
ないとは思うけど、なんかなー、作家さんの思い出話
ムービーの域を越えてないって思いました。
なんだかなー。
最後には善が勝つ
新聞ラジオでヒトラーの批判をしてきた父をもつ9歳の少女アンナ。選挙でヒトラーが勝ちそうになり、身の危険を案じた家族はスイス、パリ、そしてイギリスへと亡命を繰り返すことに…。
9歳でありながら、やけにませた物言いと振る舞いをみせるアンナ。
亡命先での言葉の不自由や友達との関係に悩まされるも、その性格が幸いしてか、亡命先でもそれなりにやっていけているようだが。。
亡命によるいくつかの別れのシーンが魅力的。
トラブルがありつつも仲良くなった友達。好きだからこそ意地悪してしまう小学生らしい姿。
子供の別れの理由が戦争というのがなんともやるせない。
側転をしてみせる親友。そして最後、こころなしか少し大人びた表情でアンナを見送る「おバカさん」。
哀しくも、確かに彼らを強くさせる別れの経験。
そして何より、家族4人がとても素敵。
まずはお父さん。こんな状況で、子供たちだけでなく、ちゃんと妻にも…そりゃ惚れ直すわ!
さらに、母と喧嘩した息子を、なけなしのお金で喜ばせる。
だからこそ、あの家から帰ってきた時の3人を許せなかったのでしょうね。強さと健気さが備わっている感じが◎
そして、ああは言っても、電球の方が大事ということをちゃんと理解している息子にもグッとさせられる。ちゃんと妹も可愛がるし。
何というか、本当にこの家族ならどんな状況になってもやっていけると思えたのが良かった。
風船、届くと良いなぁ。
この作品は実話を基に作られているとのこと。
本当にこんなに大変な思いをした家族は何人もいたんだろうな。。
それでいて、ちょくちょく笑わせてくるポイントがあるというのも本作品の良い所。
欲を言えば、アンナの作文最後まで聞きたかったなぁ。
ユリウスおじさんも魅力的だった。幼きアンナを案じて相手してくれていた所。
分かっていても、吹いてあげれば良かったとアンナは思っただろうか。
彼がアンナに言ったように、最後には善が勝つ。
まさに今後の世界においても、どうかそうであってほしいと切に願います。
もう悲しい絵は描かない
おじさんの懐中時計を受け取ったアンナが静かに嗚咽するシーンが印象に残る。本作品で一番のシーンだ。主人公アンナ・ケンパーを演じたリーバ・クリマロフスキという名前を覚えておきたい。順調にいけば演技派の女優になれると思う。
映画にはナチスもドイツ軍も登場しないが、強大な権力が個人を追い詰めようとするそこはかとない恐怖感がじわじわと感じられる。行く先々で家族を迎える人々は様々で、スイスではおおらかで親切な大家さんがいて、フランスではケチで差別主義者の管理人や、アンナを平等に扱うフランス語(国語)の教師がいた。住んでいる場所はというと、広大で美しい自然に囲まれたスイスから、人と自動車がひっきりなしに行き交うゴミゴミしたパリの街に変わる。自由で寛容な両親に育てられた賢いアンナは、いい人からも悪い人からも、自然からも都会からも人生を学ぶ。
フランスに移った当初、アンナは言葉がわからないから何もわからないと言う。その通りだ。言葉が違えば、文化も風習も人間関係も、全部違ってくる。外国生れで日本語ができない日本人よりも、日本生まれで日本語が母国語の外国人のほうが日本社会に受け入れられやすい。言葉は文化そのものだ。アンナは言葉を覚えることで文化を学び、世界を学ぶ。
いよいよパリを出発する朝の、管理人のおばちゃんと父の会話のシーンがいい。何を話しているのかアンナからは聞こえないが、父にひと言も言い返すことが出来ず、タバコを投げ捨てて不貞腐れたような顔で扉を締めるおばちゃんの様子から、おばちゃんから受けた数々の非礼に対して、父が丁寧にそしてアイロニカルにお礼を言ったのだろうと想像できる。アンナはそれ以上聞かなかった。
ユダヤ人に故郷はない。あちこちに故郷があると思えばいいと父は言う。人間はもともとボヘミアンだ。今いる場所、それが自分の居場所なのだ。悠久の時間のことを考えれば、人間なんてほんのいっときだけの間借り人に過ぎない。パラパラとめくるマンガのように、人は移動し、時代は移り変わる。アンナは空間を移動し時間を超えてきた。人生はさよならの連続である。
さて次はイギリスだ。フランス語で苦労したアンナは、今度は英語で苦労することになる。「でも大丈夫!」とアンナは言う。ユダヤ人は迫害される。ましてや父親は反体制の批評家だ。パリの管理人から毎日のように嫌味を言われたり、幼いながらアンナにも亡命の苦労があったのだ。しかし、おかげでピンチを凌げる自信がついた。英語なんか楽勝だ。
10歳になったアンナは他の10歳よりもずっと大人である。人生にはいいときも悪いときもある。人間の想像力は時空間を自由に行き来できる。作文も書けるし絵も描ける。しかしこれからは、もう悲しい絵は描かない。
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