「少女のみずみずしい視点が貫かれた秀作」ヒトラーに盗られたうさぎ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
少女のみずみずしい視点が貫かれた秀作
そのしなやかな感触に心奪われた。ナチスが勢力を拡大する時代を描いた作品なのに、ここには軍服を着た兵士の姿は登場しなければ、目の前で人が殺されることもない。国を転々とする主人公にとって、祖国ドイツの状況は手紙や電話によって知らされるのみ。かくも本作をあくまで少女のみずみずしい「旅人」としての視点で貫き通したところに感服する。これは彼女が何を見つめ、何を感じ、いかなる旅路を経て少女期を送ったのかを、感性豊かに描いた作品。絵本作家ジュディス・カーの作品に親しんで育った人にとっては感慨もひとしおとなるはずだ。いかなる異世界にも意欲的に飛び込みつつ、同時にその文化を客観的に見つめようとする意識。どんなに暮らしが困窮しようとも、家族がいつも共にあろうとする姿勢。そのすべてに彼女の生きざま、そして絵本作品に通底するものを感じる。度々口にする「アウフヴィーダーゼーン(さようなら)」という言葉が胸に残った。
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