ベイビー・ブローカーのレビュー・感想・評価
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韓国釜山の赤ちゃんポストを設置しているとある教会。 ひとりの若い女...
韓国釜山の赤ちゃんポストを設置しているとある教会。
ひとりの若い女がポストの前に赤ちゃんを放置して帰った。
部下とともにポストを監視していた警察のアン・スジン(ペ・ドゥナ)はポストの下に置かれた赤ん坊を憂慮し、ポストに入れた。
ポストに入れられた赤ちゃんは、教会の非正規雇用スタッフ・ドンス(カン・ドンウォン)によって嬰児売買者サンヒョン(ソン・ガンホ)の手に渡る・・・
といったところからはじまる物語で、こう書くとサスペンス映画のようなのだが、残念ながら、サスペンス要素は乏しい。
興味深い題材ながら、映画的には面白味が乏しく、翻るといくつかの要因が考えられる。
1)サンヒョンがベイビー・ブローカーとなった理由
くだくだしく描く必要はないが、「それしか生計を立てれなかった」というのが欠落
2)ドンスがベイビー母に惚れてしまう過程が希薄
彼女に惚れるなら、前の同じような境遇の女性にも惚れそうだようね。
ならば、彼女が「はじめて」とかというシチュエーションが必要なのだが、そんなことはない。
3)そもそも映画の話法として、家族があったサンヒョンの物語(彼には別れたといえど娘と妻といる)と、その他の人物(嬰児の若い母親は別として)の家族不在の設定とがつくりすぎ感がある
個人的には、ここのところが納得できていないのですが、映画としては
血のつながった家族があったサンヒョンが家族を喪う話と、
血のつながっていない人々が「家族」的な繋がりを得る話、
だと思うのですが、
後者に重きが置かれたために、、「疑似家族」=「最小のコミュニケーション}=「絆」という、個人的に収まりの悪い所に収めてしまった感があり、残念ながら評価できません。
欧米では、サンヒョンの物語(特に、ほとんど何もしていないにみえる終盤の演技が評価された)ようにも思えますが、脚本的にはかなり甘い感じがしました。
登場人物それぞれの背負う苦悩と覚悟
家族を描き続けてきた是枝監督が、家族を得られなかった(もしくは失った)人々が不器用に紡ぐ絆を、1人の赤ちゃんを軸に描く 捨て子の赤ちゃんを闇で売り捌くベイビーブローカー、と聞くと極悪非道に聞こえるけど、その実態は借金にあえぐ冴えないクリーニング店店主サンヒョンと、孤児院で育った赤ちゃんポスト設置施設職員ドンス 彼らは慣れた手つきで、赤ちゃんを大切に愛しんで世話する 彼らが拾った赤ちゃんを取り返すため、若い母親ソヨンが現れた事で物語が動き始め、彼らを摘発したい女性刑事スジンが後を追う 彼らの追って追われての攻防戦かと思いきや、そこに市内で発生した殺人事件とドンスの育った孤児院が絡み、物語は思わぬ方向に展開していく 韓国を舞台に、格差社会の歪みに生きる人々をリアルに描きながら、決して重苦しくなく所々で笑いさえ起きるテイストに仕上げられたのは、ソン・ガンホの存在感によるところ大! 頼りないながらどこか愛嬌を感じさせる彼のリアリティ溢れる存在感が、現実離れしたストーリーをしっかり地に足つけさせ、カン・ドンウォン演じるドンスの優しさと達観、ペ・ドゥナ演じるスジンの頑なさと気付き、IU演じるソヨンの覚悟と苦悩、それぞれに説得力を持たせている 個人的には予想外の展開だったけど、全ての人にとって一番良い落とし所だったのかもしれない、と思えたのは、そこに行き着くまでのそれぞれの苦悩がスクリーンから伝わってきていたからだと思う 全てを描かず、ラストシーンで最後を観客に委ねたのも良い 家族の形がさまざまな様に、受け取り方もさまざまで良いと思う 個人的に☆5中☆4
生まれてきてくれてありがとう
ソン・ガンホの演技。過去を捨てつつ生きてきた男の哀愁をよく表現していると思う。特に、ソヨンがホテルの部屋で皆に言ったあの言葉への反応。必死で泣きたいのを我慢する演技。 ソヨン役のイ・ジウンは松岡茉優に似ているなと思った。一緒に観賞した妻に「似てるよね」と同意を求めたら首を傾げていたけど。 ヘジン役を演じた子役のイム・スンスがよかった。彼が現れてから、旅をするメンバーの雰囲気が変わったのが、画面から明らかに読み取れた。 個人的には、ペ・ドゥナ扮するスジン刑事の夫役のイ・ムセンがいい味出してて好きである。 “祈りのような、願いのような、そんな作品である。”と、公式サイトで是枝監督が述べている。 ただ、言いたいことはよくわかるのだけど、少し整理が足りないのではないかと思った。たとえば演説なんかするとき、言いたいことがうまく伝わっていないと思うと、どんどん時間が伸びてしまう。ちょっとそんな感じ。
それぞれ、自らと仲間を見つめ直す時間が最高
里親探しの旅に出かけた5人は赤ん坊のウソン含めて、全員が訳あり。旅の進行と共に皆の気分はだいぶ和らいできているが、殺人者もいる。
◉ゴンドラに揺られながら
遊園地で揃ってゴンドラに乗るシーン。メンバーが互いに思いを馳せ、顔を見合わせる。あー、今度はこんな家族を作って、ここでハッピーエンドにするんだと、私の頬は一瞬、緩んだ。浅はかにもだ。
監督はそこではまだ、ハッピーエンドは用意していなかった。ロードムービーの中でそれぞれの心構えに変化は兆したものの、二人の男はそもそもが人身売買目的の誘拐犯であり、迎えに来ると言いながら結局は里親を探す母がいて、子を買おうとする親がいて、そんな人間たちが刑に服したり、逃亡したりして、手間暇かけて、得られないかも知れぬハッピーエンドを探すと言う物語だった。
でも、人生はきっとそうした努力が素敵な結末を生むんだろうなと、温かな気持ちになれました。
◉答えをすぐに出さないのは優しさか?
街から街へ、結論は先延ばししながら、旅はサンヒョンの顔つきそのままに飄々と続いていった。殺人、子捨て、人身売買と言う濃い問題を抱えながら、それらと正面からは向き合わず、何となくはぐらかしていく。
でも、必死に向き合っていて、答えを出すまでの、間の切なさが胸に沁みました。
◉父はいつも独りだが
水をかけられたのに笑っている、ソン・ガンホは底抜けのお人好し。私もあんな人になりたい……とは断言しないけれど。
しかし、お父さんもう連絡して来ないでと断言したサンヒョンの実の娘は、犯罪的に冷淡過ぎます。これでは親父も、本気でグレてしまう。思いがけず生まれた家族の絆と、そこまで決定的には切れるとは思わなかった絆とが、強烈な対比で見せつけられる。
「タクシー運転手 約束は海を越えて」の時は、父ソン・ガンホの胸に娘の微笑みがあったはずと記憶しています。
汗まみれでブローカーを追い続けた、二人の女刑事にお疲れ様と言いたい。しかし、まさかウソンを引き取って養育するとは、びっくり、大きく拍手。
出生賛美かな
予告見て、ベイビーブローカーって極悪人なのかなと思っていたけど本編見てただの優しいおじさん達でびっくり。お金で人を売るのは人身売買に当たるから違法といえば違法なんだろうけど。微笑ましいシーンも多かった。 スジンとソヨンの会話で産むか堕ろすかという議論は永遠のテーマだ。もちろん望まない妊娠はさせる・するべきではないのだが、その後の選択はどちらが正しいとは一概に決められないと思う。私自身、子供が不幸になるなら産むべきでは無いし、子供の立場に立って考えると人間になる前(辛さとか物心つく前)に消してほしいって思っているのでソヨンには同情できなかった。 序盤はソヨンが子を全く抱かなくて「この人は本当に母性が備わってないタイプの女性なんだな」という目で見ていたけど、ソヨンが人を殺したことや自分はいずれ刑務所に入ることになり他の親に託すから情が移らないようにしてたんだ、と分かった時は自分の偏見さに反省した。 上映時間長くて途中画面から目を逸らしてしまったけど、一番印象に残ったのは観覧車のシーン。考えようによって物事の良し悪しは変わるんだな、と。映画見てから1週間くらい経ってしまっているので具体的なセリフは思い出せない。字幕映画はそこがダメだな。視覚でしか情報が得られないからどんな名台詞も記憶に残りにくい。 ソヨン役の女優さん、一見素朴な顔立ちに見えるけど整った綺麗な顔をしていて、心の中に闇がありながらも女性としての温かみを備えていて、とても良い雰囲気があった。「万引き家族」の松岡茉優みたいな雰囲気があった。(素朴な顔立ちとか言ってしまったが、後に韓国では有名な歌手だと言うことを知りました…) 妊娠や出産は女性にとって永遠に付きまとうもの。ソヨンは売春婦だったが、一般女性も他人事では無い。望まない妊娠をしたら堕ろせる?産んだとして最後まで育てられる?男性、経産婦、独身女性でも観終わった後の感想が違うんじゃないかなぁと思った。 この映画、最終的には出生賛美なんですよね。ソヨンが仲間に対して「生まれてきてくれてありがとう」だとか、ウソンが楽しそうに遊んでる場面とか。実際、出産ってそんな綺麗なもんじゃない。そして全ての子供に福祉が行き渡る世の中では無い。「育てられないなら産むな」を訴える映画かと思ったら、「産んだ本人が育てられなくても周りが助けてくれる」「出産は素晴らしい」という印象に変わってしまった。 そしてやっぱり男性無罪だな、と。ウソンの父親は死んでしまったけど、ウソンの父親への責任をもっと追求すべき。妊娠はいつも女だけの問題になる。母親は子を愛して当然で、父親は子を見捨てても社会はそれを責めない。 上手くまとまらないので、避妊しましょう!ってことで。社会問題を描いた作品としては面白かった。ただ、ここで描かれているのはそこまでの弱者でもない。
是枝監督ってやはりスゴい。
日本ではもちろんですが、フランスでの「真実」や今作の韓国でもこれだけの豪華キャストをキャスティングできる是枝監督ってやはりスゴい。世界的に評価が高いからこそ。いずれハリウッドでも勝負してほしい。 さてベイビーブローカーですが、是枝監督らしさ全開の良作でした。 子役に至るまで 全員の演技が、とても自然に感じるのは是枝監督の演出の上手さなのでしょう。 ただ個人的にはラストがもっと感動的であってほしかった。
盛り上がりなく終わった感じ
生まれてきたことへの感謝を表現したロードムービーです。 淡々と進んでいき、途中で寝落ちしそうになりました。和やかな雰囲気ですが、感動的な演出がほしかったです。キャストは、イ・ジウンが魅力的でした。 ふと思ったのですが、ベイビーブローカーを観れば、プラン75に申し込みたいと思う人は、減るかなと思いました。親から授かった大切な命を簡単に粗末にはできないですよね? 結論としては、感動的な演出がもう少しほしかった作品です。
しみじみと温かい
冒頭『パラサイト』を思わせるシーンがあったけど、あんなびっくり箱のような展開ではなく、ささやかな人の気持ちの積み重ねが丁寧に描かれていました。 誰もが心に重いものを抱え、必死にもがいて生きている。そんな中でも手を取り合い、できることを助け合う。本来人はこう生きるべきなんだとしみじみ感じながら、物語は淡々と進む。 もっと御涙頂戴なのかと思っていたけど、色々と考えさせられているうちに終盤になり、 最後あの人の「◯◯の人生をみんなで考えよう」にどっと涙が出たし、エンドロールが終わった後とても温かい気持ちになった。 解決していないことだらけだけど、人は助け合える。そんな小さな希望の光のような映画でした。
産んで捨てるより、産む前に殺す方が罪が軽いの?
赤ちゃんポストに預けられた赤ちゃんウソンを売るブローカー、サンヒョンとドンス。赤ちゃんの母親ソヨンと、ドンスを慕うへジンも同道しての買い主探し旅。どこか陽気で、どこか親切心にあふれている。「善意」という言葉を鼻で笑っていたソヨンと、ブローカー二人の気持ちが通い出したのは、皆が皆、ウソンの幸せを願っていたからだ。 はじめ、この容疑者達を追う刑事は、逮捕することしか頭になかった。それが、彼らの行動を追い続けるに従い、感情に変化が現れる。その結果が、ラストのあれなのだろう。さすがに海辺のシーンから始まるモノローグには驚かされた。そして、サンヒョンの他利、自己犠牲の行動にも。 この映画の中に出てくる誰もが、ウソンを大事に想ってる。そしてお互いに対しても。だから「うまれてくれてありがとう」であり、「ソヨンも、うまれてくれてありがとう」なんだろうな。この映画には愛があふれていた。切ないほどに。ひとりの赤ん坊の幸せを守るために、何人もが身を捧げるように。
話題作なので観ました。
これだけ犯人に密着し続けたら、警察も感情移入しちゃいますよね… 母親が子供を捨てるところから物語が始まります。 酷いなぁ、とか何で産んだの?と大体の人は思うと思います。 でも、子を思う親の気持ちは他人には分かりません。色んな愛のかたちがあるんだな、と思いました。
是枝さんっぽい。
とても是枝さんっぽい作品だと思った。 韓国映画として観るなら、ちょっと大人し過ぎるかな?という感じで。 もう少し激しさがあっても良さそうだと感じた。 ほろっと来たけど、最後まで穏やかに流れるような作品だったと思う。 日本でも韓国でも深刻な社会問題である赤ちゃんポストが題材であるが、捨てる母親にも売るブローカーにも買う夫婦にもいろんな事情があるんだなぁーと改めて感じ、この問題の根深さを感じた。 最終的には赤ちゃんをめぐる大人達の愛情を感じて少しホッとしましたが、全体的に暗く考えさせられる作品でした。
ロードムービー+サスペンス
“人身売買”という言葉を聞くとドキリとしてしまうが、彼らの願いは金目的ではなく赤ん坊に幸せになってもらうことだった。養父母探しというロードムービーに、一つの殺人事件が並行して描かれ、最後にはウルッとさせられました。「生まれてきてくれてありがとう」という言葉がこんなにも優しいなんてのも素晴らしい脚本。俺なんてどちらかというと、「生まれてきてごめんなさい」なんだけど・・・
韓国女優の中で「国民の妹」と呼ばれる女優IU(イ・ジヨン)。かつてはムン・グニョン、パク・ポヨン、キム・ヨナ(フィギュアスケート)たちがそう呼ばれてきたが、何となく理解できる。そういや、日本に「国民の妹」と呼ばれる人はいない!
殺人課ではない刑事(ペ・ドゥナとイ・ジュヨン)を配したのも画期的であり、殺人事件については無関心を装ってるところがいい。人身売買ともとれるブローカーを執拗に追うのが仕事だからだ。ここでは『空気人形』(2009)の時のアイドル的なドゥナちゃんとは全く違い、優しさの中に厳しさを匂わせる大人なドゥナが際だっていた。
『真実』(2019)では新たな挑戦と思われた是枝監督だったが、作品としては面白くなかった。しかし、日本と通ずる韓国の土壌がやはり是枝らしさを発揮させたのではなかろうか。親子関係、疑似家族といったテーマも一貫しているし、女性蔑視や同性婚などという問題も含ませていた。
捨てる人、売る人、買う人、捕まえる人、それぞれに理由はある。
もちろん人身売買は良くないことだけど、養子縁組制度も色々な問題を抱えているし、お金目的だけでなく、その子の未来を考えての行動なら、許されても良いと自分は思います。 ウチも流産をしたり、長年の不妊治療でも授からなかったので、養子縁組も調べましたが、年齢や年収などの条件が高すぎて諦めました。 マッチングアプリとまでは言いませんが、もっと気軽に、親が欲しい子供と子供が欲しい夫婦が、巡り合えて家族になれる世の中になってくれることを切に望みます。 自分も我が子に「生まれてくれてありがとう!」って言ってあげたかった。。 ヤバい、このコメント書いてるだけで、色々な感情が込み上げて来て、涙が止まらない・゜・(つД`)・゜・
重いテーマを温かくする技巧
1人の赤ん坊を巡る数奇なロードムービー。 乳児遺棄という重いテーマを 温かく清々しく描いてみせた、 あの空気感は是枝監督とソン•ガンホによる タッグだからこそなんだろうな。 一緒にいい旅をさせて貰ったような感覚。 ロードムービーの醍醐味を堪能させてもらえた。 お見事。
“家族”でありたいと願う祈りのようなもの
とても見たかった。 ゆるいしあまい。 リアリティは置いてメルヘンをとりにいった感じ。 登場人物全員の素性がふわふわしている。生活の気配がない。ふたりの刑事なんか、ほとんど買い食いしているだけw。 でもいい。絵がとてもキマる。どのカットも是枝映画史上最高に映える構図だった。 演者たちは言うに及ばず。ちょい役のイ・ドンフィさえしっかり爪痕をのこした。 が、個人的に最優秀男優賞はヘジン君だった。 ヘジン君は捨てられ養護施設で育った。 養子としてもらわれる年齢の上限とされる6歳を過ぎて8歳、“施設の売れ残り”だった。 いつもヘジンと名前をいれたぼろぼろのサッカーボールで遊んでいる。 サンヒョン(ガンホ)に会うと僕を養子にしてと言う。 ドンス(ドンウォン)にお兄ちゃんと甘え、ソヨン(IU)にお姉ちゃんと甘える。 ワンボックスに忍びこんで周旋業の道連れになる。 洗車機をくぐっているとき窓を開けて水びたしになった。 みんなが笑った。 ヘジン君にとって「家族」っぽい思い出はそれだけだった。 ほかには何にもしらない。 遊園地の観覧車に乗りたいと言ったが、遊園地の観覧車に乗ったことはなく、そもそも高いところは怖かった。 だから観覧車に乗って「洗車場に行きたい」とヘジン君は泣いた。 「お父さん/お兄ちゃん/お姉ちゃん/ウソンとドライブに行き洗車中に窓をあけて水びたしになってみんなで大笑いした」 たとえニセの家族でも愛に飢えたヘジン君の中ではその瞬間だけが楽しい家族旅行の思い出を形成しているのだった。 とても泣けた。 そんなヘジン君をたくみに造形した監督もさることながら、個人的にはかれに男優賞を与えて柳楽優弥の最年少記録を破るのもありだった。 少ない情報量や僅かなセリフを絵(構図)でおぎなう映画だった。(半開きの車窓ごしのペ・ドゥナが映えまくる) また漠然とした幕引きはゆるさとあまさを抑えていた。 顕著な特長はソヨン(IU)を象徴的に扱っているところ。だと思う。 是枝監督はIUの起用についてマイディアミスターを見て彼女の魅力にハマってしまったと白状していたが、まさに魅了された演出家の視点だった。 おそらくソヨンはもっと蓮っ葉なヤンママ風情のポジションだが、IUに振ったことでミステリアスと、宿命を背負った気配が付与された。つまりソヨンはまんまマイディアミスターのジアン(演:IU)だった。 是枝裕和監督は、韓国で韓国のスタッフと映画をつくった経験をインタビューで述べていた。 それを要約すると、かれらは日本よりも優れた労働環境とシステムのなかで仕事をしている──というもの。 いまさらいうまでもないが日本は後進国だ。 2022年6月14日、是枝裕和監督ら6名が「日本版CNC」設立を求める会を立ち上げ、映画界の共助システムの構築を目指す主旨の記者会見を行った。 是枝監督と、日本映画の鬼才or重鎮たちとのちがいは、じぶんが映画の後進国で仕事をしていることを自覚しているか否か、に他ならない。 もう(園子温or河瀬直美などの)強権的な白亜紀の肉食獣が暗躍する時代じゃないし、ましてや昭和ポルノ出身の化石たちがATG映画をつくる時代でもない──と是枝監督は言いたいのではないか、と個人的には思っている。
やさしい映画
「やさしい映画」だと思った。 見る人に対しての優しさ。そして難しくない、という意味での易しさ。観客の求めるものに期待以上に応えながら「誰も知らない」や「万引き家族」のような圧倒的な衝撃を与える作品ではない。この作品をどう評価するのが正当なのか、まだ答えが出ないでいる。 是枝裕和監督の新作「ベイビー・ブローカー」 あらすじ的に書くとこんな感じ。(ネタバレはないす) 「赤ちゃんポスト」に預けられた子どもを、ブローカーとして転売しようとするソン・ガンホ演じる主人公。赤子をポストに「捨てた」若い女性がブローカーの企みに乗っかり、奇妙な旅が始まる。ブローカーを現行犯で逮捕しようとする女性警官。自らも捨てられた子である主人公の相棒。それぞれの事情や、心の傷が徐々に明らかになっていく。 「捨てるくらいなら、なぜ生んだの?」 「生む前に殺す方が、捨てるよりもいいことなの?」 正確な記憶ではないけれど、そんなやり取りが胸に刺さる。 重いテーマではあるけれど、韓国の名優によって演じられる登場人物はそれぞれに人情味があり、悪い気持ちにはならない。望まれずに生まれてきた命に救いはあるのか?見る側への根源的な問いかけ。でも残酷さは無い。 緊張感がありスリリングな前半に対して、主人公たちに絆のようなものが生まれてくる後半は、北野武のロードムービーのような味わいもあり「もう一度見たいな」と思わせた。そこが「万引き家族」や「誰も知らない」とは違った。 「誰も知らない」を見終わった後は、何だか呆然としていた。言葉に言い表せない暴力的な読後感。「お前らが見て見ぬふりをしているものは、これだ」と突きつけるような態度は、この作品にはなかった。それは是枝監督の意図的な選択のようにも感じられた。 映画を見た次の日。クローズアップ現代での特集を見た。 制作の動機として、相模原での無差別殺人事件について語った是枝監督。事件を起こした青年と接見をしたのだと言う。 「役に立たない人間を生かしておく余裕は社会にない」彼が語ったその考え、そしてその考えがある程度「受け入れられている」今の社会に対してのメッセージとして制作していた部分もあると。 映画のクライマックス。「意味のない命なんてない」まさにそのテーマを、直接に伝えるシーンがあった。 「捨てられた子どもたち」である主人公たちが、それぞれの生を肯定するシーン。僕は映画館で感動し、それでもちょっと驚いた。上質な演技と演出によるシーンではあったものの、それはあまりにもストレートにメッセージを伝えていたからだ。 (クロ現HPから引用) ーー映画の中では、赤ちゃんに対して生まれてくれたことに感謝を伝えるシーンが出てきます。これまでの是枝監督の作品と異なり、「ストレート」に命について表現したという声もあります。そのシーンにどんな思いを込めたのでしょうか。 是枝監督: 脚本にはなかったんですよね、キャスティングが終わってイ・ジウンさん(赤ちゃんポストに子を預ける母親役)の声を聞いてから書いているシーンなんだよな。 自分で脚本を書くんですけど、今回は日本語ですが、彼女の声で書くんです。彼らの声で。声だけが際立つシーンにしようと思って、とてもいい声なので、彼女は。ストレートに表現したのは、あの青年に聞いてほしいなと思って書きました。 (引用終わり) 「あの青年」が、相模原の青年なのかは明示されていない。そうだとしても違ったとしても、「どんな命にも意味がある」というメッセージを、「セリフとして」伝えること。それは映画という表現においては、陳腐になってしまうギリギリの表現であるように思えた。これまでの是枝映画はメッセージをわかりやすく提示することを周到に避けてきたはずなのに。 見るものを混乱させたり居心地の悪い気分にさせること、人々が当たり前と感じている価値観を疑っていくような物語。そういったものは今回の作品にはあまり見当たらない。それは多くの人が心を苛む今だからこそ、でもあったのかもしれない。 しかし、ある種「読後感の良すぎる」作品に違和感を覚えたのも事実だ。是枝監督が今、こういった作品を作った意味はもっとあるように思えた。 「ベイビー・ブローカー」を特集したクローズアップ現代。番組の後半は、韓国での映画作りに焦点が当てられた。国際的に評価される韓国映画。そのど真ん中に飛び込み韓国人のスタッフと「韓国映画」として新作を撮る。言語の困難や制作環境の違いを乗り越えての映画作り。 それはカトリーヌ・ドヌーブを主役に迎えてフランスで撮影した前作「真実」と相似形を描く。番組ではそれを成長を目指す「挑戦」として描いていたが、意地の悪い見方をすれば、ある種の「話題作り」として捉えることもできる。 それはもちろん悪いことではない。理想主義を現実主義、あるいは商業主義で支えるような戦い方は、是枝映画のひとつの特徴として存在してきた。 俳優に毎回、広瀬すずや福山雅治など旬の俳優を抜擢することや、「真実」でのフランスロケや今回の韓国のように、どこか「企画書」的な売りを、わかりやすく設定すること。配給会社は、宣伝しやすいんじゃないかと思う。 自分の作品を作り続けるためには、ある程度の結果を出さなければいけないし、その為には注目を集めなければならない。 「良い映画を作る戦い」と、「映画を作り続ける為の戦い/映画館に足を運ばせるための戦い」があるとするなら、その両方に対して、是枝監督は極めて意識的に戦い続けてきた。 自分が自分らしい映画を作り続け、ある程度商業的に成立させていくこと。それが危機に瀕する日本の映画界や、映画を志す若者に対してどれくらい重要なことであるかを是枝監督は理解している。 「韓国映画」としておそらく世界に配給される今回の作品。その事が、どれくらいストーリーに影響したのかはわからないけれど。 番組の終盤。韓国映画界を挙げての「次世代育成」に対するきめ細かい支援を目の当たりにした是枝監督。韓国で映画監督を目指しているという日本人に出会い、こう問いかけた。 「僕らの世代に言いたいことない?もっとしっかりしてくれと思わないですか?」 若者は、「このままの状況が続くなら、将来日本では映画を作ってないかもしれない」と是枝監督に伝える。そんな声も監督は受け止める。 そして語る。 「映画館を含んだ映画文化というものを、いい形で次の世代に渡そうと思ったときに足りないものがたくさんある。色々と課題は見えているつもりなので、一緒に何とか日本の映画界を変えていこうと話し合っている監督たちに情報共有します」 かつてはBPOの委員を10年近く担い、テレビ界が抱える問題点や、テレビ界に対する外からの圧力に対してフェアで厳しい意見を伝えてきた是枝監督。正義感の人であり、理想主義の人であり、情熱の人でもある。 あまりに多くのものを背負いすぎてしまってないか。そんな心配はやっぱり残るけれど。 社会にまだ元気があった時代に仕事を始め、そこから下り坂になっていくばかりの日本に責任のようなものを感じて踏ん張ろうとする姿。僕は彼より少し下の世代だけれども、とても理解できるし勇気づけられる。 物事が見えてしまう分だけ、自分のことだけをすればいい、とはいかない。それでも「何かを作ること」への真摯さを何より大切にし、さらに、自分の作品で状況そのものを変えることだってできると信じる気持ちも持っている。 まるでソン・ガンホが演じる主人公のように、純粋でしたたかな戦いを続ける是枝監督。そんなイメージが最後に心に浮かんだ。
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