「生まれてくれてありがとう。」ベイビー・ブローカー 大吉さんの映画レビュー(感想・評価)
生まれてくれてありがとう。
公開初日に鑑賞。
感情が上手く言葉に表せないまま三週間が経ち、再度鑑賞。
初回は当然ながらこれからどうなるのだろうと思いながら物語りに引き込まれた。
登場人物たちが背負っているものを知った上での二度目は、冒頭の大雨のシーンから泣けてしまう。
クリーニング店を営むサンヒョンは妻と娘にも逃げられ今は借金に追われている。「赤ちゃんポスト」のある施設で働くドンスは自らも母に捨てられ養護施設の出身。この二人のベイビー・ブローカーと、赤ちゃんポストの前に我が子ウソンを捨てた若い女ソヨン。養護施設から逃げ出した少年ヘジン。
ウソンの養父母(買い手)を求めておんぼろバンでの旅。
それを追う現行犯逮捕にこだわるスジンと先輩に懐疑的ながらも従うイの二人の女性刑事。
洗車機での悪戯やウソンの発熱などを通して少しずつ心を開いていく。
悲しい結末しか待っていないのが解っていながらも、彼らの旅がいつまでも終わらないでいて欲しいと願ってしまう。
それぞれがつらい過去を背負っている登場人物のキャラクターづけがしっかりとなされているので、ひとつひとつの場面、セリフが切なくて胸に刺さってくる。
トンネルに入って、闇が表情を、騒音が返答を消してしまうシーン。
我が子が目の前で他人に授乳されるシーン。
娘にもう会いに来ないでと去られるシーン。
そして、観覧車の中のプロポーズにも似た許し。
極めつけは、生まれてくれてありがとう。
同じソン・ガンホ主演の「弁護人」「タクシー運転手」、また「1987真実の闘い」や直近では「モガデシュ」などの実話ベースの骨太な社会性のある作品まで第一級の娯楽作品に仕上げてしまう韓国映画と比べると物足りなく思ってしまうかもしれない。
韓国の監督が撮っていたなら、殺人のシーンも描かれているだろうし、最後は釜山スカイランドのゲート前で全員が再会して、涙涙で終わっただろう。
しかし、是枝監督は結末を描かない。
来月の15日に再会するかもしれない、
数年後、十数後の15日にサンヒョンも含めてみんなが再会するかもしれない、
お互いにもう二度と会うことはないかもしれない。
登場人物たちの未来は観る人によってそれぞれ異なるだろう。
「花よりもなほ」のラスト近くにこんな台詞があった。
桜が散るのは来年また咲くためですから、
今年よりももっと美しくね。
大好きなこの台詞や「海街diary」と同様に、韓国人スタッフとキャストで韓国を舞台に作られたこの是枝監督作品は、私の心の奥深くにいつまでもいつまでも留まるであろう。
そして多くの人に語りつがれる作品になるだろう。
生まれてくれてありがとう。
生まれてくれてありがとう。
何度でもやり直すことができる。
この映画を作ってくれてありがとう。
久しぶりに買ったパンフレットにソヨンを演じたイ・ジウンのコメントが載っていました。
お互いに違う価値観を持ち、それほど美しいとばかりは言えない人生を生きてきた人々に出会い、相手を理解していく過程を淡々と描いた映画です。映画に対する感想が人それぞれであっても、それも大きな意味のあることだと思います。
全てを表していると思います