「新しい命に最善を尽くし、大切なものに気づくお話」ベイビー・ブローカー バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
新しい命に最善を尽くし、大切なものに気づくお話
血のつながりではない絆、信頼と慈しみが徐々に生まれて、ジンワリと温かい空気の輪がどんどん大きくなっていき、ホワァンと気持ちが優しくなっていくような作品でした。赤ちゃんを中心としたただの感動ドラマ仕立てにしていないのは流石の是枝監督ってところではないでしょうか?まぁ、赤ちゃんの引き取り手(顧客)を探しながら大人達が救われていく巧みな物語でした。
本作は見事に血縁関係が出てこないのです。唯一の血縁関係の描写は悲しい関係なんですよね。良い対比だったかなぁ。「血縁」ではなく、重要なのは「存在」を否定しない、認める、受け入れるってことなのかなぁ?って思いました。それがあるから家族(のようなもの)になれるのかもしれないですね。
「傘のくだり」とか「雨も良いところがある」とか「生まれてきてくれて〜」・・・などなど。いいとこつくなぁ〜の描写が目白押しです。登場人物が皆、「無い」から、「持っていない」から、尚更渇望する相手の気持ちがわかるのかもしれないなぁ。登場する方々、ほぼ全員いい人なんですよね。他者の寄り添い方も心で肩をそっと抱いている感じが本当によかった。
さらに安易な感動ポルノっぽい結末ではないのが良いですね。もしかしたら見る方によってはスッキリできないかもしれません。けど主要な登場人物全員が現実味のある落とし所を必死に見出した結果なんだと思います。誰もが自身の役目(仕事の役目も含め)をきっちりこなしたってことは、守るべき新しい命を社会的に不幸にさせないための方法だったんだろうなぁって思うのです。そこがまた優しさたっぷりというか・・・。
正直、女刑事が見逃すのかなぁ?って思ってたんです。色々と内情がわかってきたから情が移ってって感じで。でもそんなありきたりな結末はやはり違いますよね。本作は赤ちゃん救うお話じゃないですから。捨てられた赤ちゃんを中心に多くの大人達が救い救われていくお話。見えない絆で結ばれていくお話ですから。結果的に擬似的な家族は擬似的な一族に昇華していくのです。そして、集う彼らの笑顔に観客は「あぁ、これでよかったんだ、これがよかったんだ」ってまたラストにあたたかーい気持ちになれるのだと思います。
韓国の方々はわかりやすい感動を求めるって聞いたことがあります。ですから、もしかしたら韓国では本作は受け入れられないかもしれません。しかし、演者さんは素晴らしいですし、撮影舞台が韓国だからこそ、本作の雰囲気が醸し出されているとも言えます。