「いつのまにか旅の参加者になれます。」ベイビー・ブローカー humさんの映画レビュー(感想・評価)
いつのまにか旅の参加者になれます。
ざあざあ雨に古びた街の姿が滲む夜
赤ちゃんポストの下に置かれた赤ん坊。
そこから始まる「赤ちゃんを高く買ってくれる養父母探しの旅」
ブローカーの男サンヒョンとドンス、売りものにする赤ん坊ウソンと母ソヨン、養護施設の少年へジンも途中から飛び入りし出会ったばかりの5人を乗せて進む車。
後を追うのはブローカーの実行犯逮捕を狙う女性刑事スジンとイの車。
韓国で深刻な社会問題にもなっている闇稼業。
その犯人逮捕へのドラマだけを想像していたなら、え?え?え?となる。
重い事件性を匂わせつつも、ブローカーの車の漫画のようなオンボロ具合やところどころ笑いを誘うコミカルなやりとり、少年との微笑ましい会話やその表情など幸せでたのしい雰囲気がたくさん散らばっていてつい忘れそうになるが、いかん、いかん。。。彼ら、れっきとした人身売買に関わり中。
だが、その奇妙な出会いの意味やいかに…なのだ。
道中、一緒に過ごし相手の人生の裏側を知ることで家族のような関係性が生まれ、やがてそれぞれが自分自身をみつめ返す時間となる。
この心情の微妙な変化の描写がみせどころであちらこちらに仕掛けられてるのを私たちは繋ぎ合わせるように見入ることになる。
ひょうひょうとして調子のよいサンヒョンの別れた家族との寂しい関係、ドンスの生い立ちがつくる影、ソヨンがウソンを手放すまでの悲しい理由、やんちゃなヘジンの境遇と幼き無邪気な希望。そしてクールな刑事スジンの背景も、だ。スジンに関しては直接にはほぼ語られないのだが
彼らにかかわりながら見え隠れしていくのを見逃せない。
特に、雨にぬれ車窓についた花びらを座席から手を伸ばし掬い上げていくしぐさは印象的で彼女の中の葛藤、不安感、さみしさなど人間的な部分を静かに露呈している。図らずも、、の演技が素晴らしい。
チーム長として気丈で頼もしいキャリア像がある故に真逆な一面を思いがけず目にしてしまった申し訳なささえあった。
そして、観るものに人は皆、360度いろいろな事情と思いを重ねそこに存在しているんだよということを思い出させるのである。
また、「傘」というワードで気持ちのかたむきを会話に込めたドンスとソヨン。
宿泊先や車や観覧車の中でのものだ。
どこも安定していない流動性のある場所で、それが不確かなものをみるときにすっと光をあててみたくなるような、でも怖いような、、そんな、ちょっと懐かしくもあるじりじり感を増しているように思う。
かつて親に捨てられた立場の彼がそれを許せる心境をむかえるとき、側にいたのは今まさに子を捨てようとしているソヨン。
ふたりに流れる空気にじーんときた。
どうしようもない雨に濡れながら、我が子を置くしかなかった彼女に、小さな傘が横からゆっくり開き、だんだんと大きな傘にかわって包まれていく感覚だった。
不意に始まったこの旅は、傷をもったお互いの心に寄り添いながら変わりゆく自分を見つめる旅だった。
観客はいつのまにかそれを擬似体験する旅の参加者になり、何かしらの思い出を胸の底に得るのだとおもう。
お忙しい中、何度もコメントいただきまして、お気遣いありがとうございます😊
『ベイビーブローカー』ですが、日本だったと思いますが、父親が預けに来たのは、3歳の幼児、そして、二度と迎えに来なかったらしいとか。熊本の赤ちゃんポスト、私は賛成で全国にあれば良いのに、と思う考えですが、これには驚きました。
あの、humさんの仰ってられる間違い、とか、ご本人は気になさるかもしれませんが、言葉失礼ながら、大したことでは
ございません。2作品鑑賞しておりますし。
humさんのレビュー、大変楽しみにしております。
この作品なら、どう書かれるかな?とか。『川っぺりムコリッタ』の大家さんの
ことの表現、秀逸❣️感服いたしました。
僭越ながらメガネ、関係ないと思います。失礼いたしました。
ですので、拝読させていただくのが楽しみなのですが、‥‥というところです。
共感有り難うございます。仕掛けをシーンの中で押しつけられるのではなくて、観る人が自然に気づいていく。あるいは観終わって、humさんの沁みるレビューを読みながら気づく。そんな作品ですね。
琥珀糖さま
コメントありがとうございます。
そんなふうに言っていただき嬉しいです。ネタバレのサイン、警告が目立つように点滅させるオプションがほしいくらいでしたね^^;
みなさんのいろいろな感想を知るのはたのしみです。
私のレビュー、投稿歴は浅く、文章も拙いですが、こんなのもあるかと思っていただければ^ ^
humさん。
抒情溢れる心に沁みるレビューですね。
「ベイビーブローカー」のレビューをついつい観る前に
沢山読んでしまいました。
humさんのレビューが、何故か分かりませんが、一番、映画に近い気がしています。
それから、「シラノ」「新聞記者」など読んで下さってありがとうございます。
読んで貰えることがひとつの奇跡です。
ありがとうございます。
こんにちは。
レビュー拝読しました。
素敵なレビューですね。感服です。
”「傘」というワードで気持ちのかたむきを会話に込めたドンスとソヨン。”
傘の視点は、様々なシーンで描かれていましたよね。
では。