「様々なカタチの家族を描いてきた是枝監督の、これは一つのanswer」ベイビー・ブローカー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
様々なカタチの家族を描いてきた是枝監督の、これは一つのanswer
『真実』は仏日共同製作だったが、こちらは韓国映画で、是枝裕和初の海外単独資本の監督作品。
カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらを揃えた『真実』は正直是枝監督作品の中でまずまずであったものの、仏米のトップスターを日本人監督が演出するなんて日本人として誇らしかったが、こちらも一切引けを取らない。
ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナら韓国を代表するトップスターたち。
何と言っても、是枝裕和×ソン・ガンホ!
『万引き家族』の監督と『パラサイト 半地下の家族』の主演俳優という、カンヌ国際映画祭パルムドール覇者がコラボ!
現在考えられる、アジア圏屈指の監督と名優の贅沢夢の顔合わせ!
是枝監督作品好きでソン・ガンホ好きの自分としては、今年の作品の中でも特に見逃せない一本だった。
様々なカタチの“家族”を描いてきた是枝監督だが、本作もそれに纏わる。
“赤ちゃんポスト”。
正直それがどういうものか詳しく知らなかったが、本作で見知り、後からWikipediaで調べて衝撃。
何らかの理由で子供を育てられない親が、特定の場所に設置されたポストに子供を預ける。
…いや、はっきり言おう。我が子を“捨てる”。
“物”や“ゴミ”ではないというのに…。人の命を何だと思っているんだ? ましてや、我が子を。
親にも苦悩の末の理由があるのは分かる。生活苦、子供を育てられないような状況、自ら下した親の資格ナシ…。
劇中のある台詞が響く。「育てられないなら産むな」
日本にも2ヶ所あるという赤ちゃんポスト。
『そして父になる』製作中に存在を知り、企画を考え始めたという。
ならば何故日本映画としてではなく、韓国映画として?…と一瞬思うが、韓国の赤ちゃんポストの数は日本とは桁違いだという。
日本より韓国での方がしっくり来る題材で、折しも海外進出。ソン・ガンホら韓国人キャストと兼ねてから仕事したかったという熱望もあり、タイミング的にも熟したと言えよう。
赤ちゃんポストが題材だが、ただそれだけが主題ではない。
ある赤ちゃんを巡って、それぞれの事情、立場が交錯していく。
ある雨の夜、赤ちゃんポストの前に赤ちゃんを置いていく若い母親。
それを離れた車の中から見ている二人の女性。
若い母親が居なくなってから、二人の女性の内一人が、赤ちゃんをポストへ。
するとその赤ちゃんを、児童養護施設の若い男と中年の男がこっそり連れ去る。
中年の男=サンヒョンと若い男=ドンスの裏稼業は、子宝に恵まれない親に赤ちゃんを売買する“ベイビー・ブローカー”。
二人の女性は、刑事。先輩のスジンと後輩のイ。“ベイビー・ブローカー”の情報を追い、現行犯逮捕しようと張っていたのだ。
サンヒョンとドンスの目的は、赤ちゃんの売買。
スジンとイの目的は、逮捕。
が、ここで思わぬ事態が。一度は赤ちゃんを手離した母親=ソヨンが思い直して、赤ちゃんを連れ戻しに来た。
赤ちゃん売買の事がバレてしまったが、すでに“買い手”が決まり、里親探しの旅にソヨンも同行する事に。
そんな彼らの後を追うスジンとイ…。
里親探しに実の母親が同行するって、オイオイ…。安心して預けられるかどうかの“品定め”でもある。
最初の交渉相手の夫婦が赤ちゃんを見るなり、眉毛が薄い、父親の職業、分割払いなど難癖や注文を付けてくる。
ブチ切れるソヨン。腐ってもこの子の母親。私が認めたいい夫婦にしか譲らない!…って、そもそも赤ちゃんを手離したのはアナタですよ!
…と言うように、ユニークで一癖も二癖もある人間模様。
赤ちゃんを売買するなんて当然犯罪。でも、やってる本人に悪意はない。サンヒョン曰く、“善意”。
普段はクリーニング店を営み、借金に追われるサンヒョン。だからどうしても金が要る。
養護施設で働く好青年のドンス。実は彼も赤ちゃんの頃施設の前に置き去りにされ、施設で育った身。
ソヨンも赤ちゃんが絡むある“訳アリ”が…。
各々が何かしら複雑な事情を抱えている。
ここに、施設の少年も同行。
基本各地をドライブし、窓を開けて洗車してはしゃいだり、端から見れば“仲良し家族”そのもの。
何かを抱えた者同士が集った時、家族以上の“家族”となる。
やってる事は犯罪だけど、彼らの交流が温かい。
そんな光景を、スジンは…。
法の番人である以上、法で取り締まるのは正しい。
が、自分たちがやってる事は、赤ちゃん一人のこれからに影響が出るのではないか…?
それがいい方か悪い方かに転ぶかは分からない。
もっと分からないのは、“子供を捨てる”という行為。
スジンは夫との間に子供が出来ない。
だからこそ一際、子供を捨てる親の気持ちが理解出来ない。
彼女が逮捕するのは、自分たち夫婦のように子宝に恵まれない親に赤ちゃんを売買する輩。
何かこれ、皮肉にも感じた。
最も複雑な板挟み状態なのがスジンなのかもしれない。
とあるホテルで暴力団幹部の男の死体が発見。
この男こそソヨンの赤ちゃんの父親であり、ソヨンは男を殺して逃げてる身。
暴力団員も赤ちゃんの行方を追う。
そんな時、これ以上ないくらいの好条件で赤ちゃんを買いたいという夫婦が。金額的にも良し、何よりこの夫婦の性格も良し。
決めたいサンヒョンとドンス、決断か否かのソヨン、またとない逮捕の機会のスジンとイ。
“赤ちゃんポスト”から始まった幼い一人の赤ちゃんを巡るそれぞれの思惑の行方は…?
赤ちゃんの幸せか、自分らにとっての良き結末か…?
キャストたちのアンサンブル演技がやはり魅力。
本作で韓国人俳優初のカンヌ国際映画祭男優賞を受賞。ソン・ガンホの人間味たっぷりの味わい深さ。是枝監督とも阿吽の呼吸だったという。
カン・ドンウォンも複雑な役柄を好演。
特に難しい役所をこなしたのは女優陣。刑事役のペ・ドゥナ、母親役のイ・ジウン、母として女性としての苦悩や姿を体現。
ズバリ本作、ハッピーエンドな形で終わる。
韓国映画のこういう社会派題材や『そして父になる』『万引き家族』で観客に委ねてきた是枝監督としては意外な気がした。
ひょっとしたら本作は、これまで投げ掛けてきた“家族のカタチ”の、一つのanswerなのかもしれない。
突き刺さる台詞もあった。
「産まれる前に殺すのと産まれてから殺すのと、どう違うの?」
だけど本作は、誰もが一人の赤ちゃんの幸せを願い、思いやっている。
そこに、優しさを感じた。answerは、是枝監督ならではの優しさであった。
だからこそ、この台詞が響く。
「産まれてきてくれてありがとう」
こんにちは
共感ありがとうございます。
とても感動しました。
是枝裕和監督の“家族のカタチ“の一つanswer・・・
本当に誰もが赤ちゃんの幸せを願っていましたね。