「【”生まれてきてくれてありがとう。”と一度は我が子を捨てた女性は、共に旅をする”疑似家族”達一人一人の名を呼びながら言った。”家族の形とは何だろう。”とロードムービー形式で問いかけてくる作品である。】」ベイビー・ブローカー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”生まれてきてくれてありがとう。”と一度は我が子を捨てた女性は、共に旅をする”疑似家族”達一人一人の名を呼びながら言った。”家族の形とは何だろう。”とロードムービー形式で問いかけてくる作品である。】
■是枝監督が、拘りを持って描き続ける、様々な”家族”の姿。
今作は血のつながりもない哀しき過去を持つ5人の”疑似家族”
ー社会から疎外された人たちー
が、若き女性ソヨン(イ・ジウン)が産んだウソンを売るために、韓国各地を借金塗れのサンヒョン(ソン・ガンホ)のオンボロのバンで旅をする中で、徐々に心を通い合わせて行く姿を、是枝監督が温かき視点で映し出している作品である。
◆感想
・冒頭、雨降る夜、一人の女性が赤ちゃんを教会の”赤ちゃんポスト”の中では無く、前に置いて去るシーン。”必ず、迎えに来るからね”と言うメモを残して。
ー ソヨンは何故、ウソンを赤ちゃんポストの中に入れずにその前の地面に置いたのか。そのままでは死んでしまうのに・・。
私は、大きな罪を犯したソヨンも自ら死のうと思ったのではないかと解釈した。大罪を犯した子として我が子が施設に入れられる事を懸念して。
だが、ウソンが、博打により借金塗れとなった妻女と別れたサンヒョンや施設育ちのドンス(カン・ドンウォン)により、”金を稼ぐために”連れ去られた事を知ったソヨンは、死を選ばずに彼らと自らの子と共に旅をする決断をしたのだろう。-
・ウソンを売るために、サンヒョンのオンボロのバンで”疑似家族”が共に旅をするロードムービー形式の設定にした事が、この物語を豊饒なモノにしている。
・血の繋がりがないのに、限られた狭きバンの空間の中で彼らは、徐々に打ち解けていく。それまで偽名を使っていたソヨンも本名を名乗る。
ー そして、観る側は、彼らが哀しき過去を持つことに、気づいて行くのである。ー
・旅の途中で、ドンスが門の前に置かれていた施設を”疑似家族”が訪問するシーン。皆に歓待されるドンスの姿。
ー 彼の家族は、血が繋がっていなくとも沢山いて、施設が彼にとって大切な家である事が分かる。ー
・出発したバンの中には、サッカー好きのヤンチャな男の子ヘジンがいつの間にか、乗っていた。”疑似家族”が一人増えたのである。
へジン(羽星と書くらしい・・。”遠くまで行けるようにという意味だよ”とソヨンが優しく言っていたね。)が旅に加わる事で、物語は温かいトーンになって行く。
・彼の悪戯により、皆がびしょ濡れになったり、ウソンが熱を出してしまった時にも、皆で病院へ直行する。
ー 赤ちゃん売買は、勿論、罪である。
だが、今作でウソンを売ろうとするサンヒョンやドンスは自らの哀しき過去故からか、ウソンの面倒をキチンと見て、大切にしている。ー
・ウソンを買いに来た夫婦が、ウソンの顔を観て値段を下げ、更に分割払いを提案してきた時の、ソヨンが血相を変えて罵るシーンも印象的である。
・そんな”疑似家族”を冒頭から尾行する刑事コンビのスジン(ペ・ドゥナ)、後輩のイ(イ・ジョユン)の姿も、何だか可笑しい。現行犯逮捕を目論む彼女達は、時には”囮夫婦“まで使うが、巧く行かない。
ー 彼女達も、少しづつ、この”疑似家族”が好きになって行ったのではないだろうか・・。-
■沁みたシーン
・ホテルの一室で、ソヨンが部屋の電気を消し、皆の名前を一人一人呼び”生まれてきてくれて有難う”と言うシーン。
そして、彼女は最後に、ウソンに対し、”生まれて来てくれて有難う”と言う。それまで、愛情が移ってしまうことを避けるために、敢えて深く接しなかったのに・・。
- ”疑似家族”の結束が、更に高まったシーンであると思う。-
・観覧車の中で、ソヨンとドンスが会話を交わし、ソヨンが静に涙を流すシーンも、心に沁みる。
<ラストも良い。
サンヒョンは、ウソンを守るために大きな罪を犯す。
一方、自首したソヨンの満期出所を待って少し大きくなった、ウソンの面倒を見るスジン刑事夫婦の海岸での楽し気な姿。
是枝監督が書き下ろした、瑕疵なき脚本の秀逸さは言うに及ばず、監督の”社会の弱者”を温かき視点で描いた作品である。
今作の随所で微かに流れるアコースティック音楽も、作品の趣を高めている作品でもある。>
■2022年6月25日追記
・申し訳ありません。今作品、一晩考え、当初、4.0にしていましたが、4.5に上方修正させて頂きます。
ボクも、
韓国映画、というだけで、
かなり期待値上がります。
ただ、その期待値は、
韓国映画によくある、即物的なバイオレンスやグロテスクな表現であったりするので、
今作は、是枝フィルムとして良作ですが、
韓国映画としては、ちょっと物足りないかな❓
て感じでした。