「中世アイルランドの森にほど近い小さな町の出来事。 幼い娘・ロビンは...」ウルフウォーカー りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
中世アイルランドの森にほど近い小さな町の出来事。 幼い娘・ロビンは...
中世アイルランドの森にほど近い小さな町の出来事。
幼い娘・ロビンは父親とともにイングランドからやってきた。
父親の仕事はオオカミハンター。
町を支配したイングランドの領主のもと、森を切り拓くための仕事である。
父の仕事にあこがれるロビンは、父の言いつけを守らず家を抜け出し、オオカミハントの仕事をする父の後をつけ、少女メーヴと出会う。
メーヴはオオカミを統べる者・ウルフウォーカーの数少ない一族のひとりで、魂はオオカミ、眠っている間だけ魂がオオカミとしての実体を持ち、活動することが出来る。
そして、メーヴと仲良くなったロビンは、彼女から、母親が行方不明になったと聞かされ・・・
といったところから始まる物語で、物語の骨子もさることながら、アニメーションの醍醐味を味わうことが出来る、傑作ともいえる作品。
とにかく、こういう絵が動くのか、と感嘆させられます。
森の中の描写は曲線主体で、木洩れ日までも繊細に表現されている。
対して、町の描写は、直線主体のデザインされたもの。
時折、俯瞰描写と横からみたフラット描写が組みあわされて、ハッとするような構図も登場します。
そして、人物たちの躍動感。
ウルフヴィジョンと名付けられた、オオカミ視点での画づくりもあります。
(このウルフヴィション、古い映画ファンなら、『ウルフェン』という映画を思い出すかもしれません)
メーヴに咬まれたロビンも、自分では知らないうちにウルフウォーカーと化し、行方知れずだったメーヴの母親を見つけますが、イングランドから来た領主はオオカミを敵視し、最終的には森を焼き払い、オオカミたちの殲滅を図ろうとします。
この後半の描写は、イングランド兵士たちが極度にデザイン化されてい、かつ、三面分割のスプリットスクリーンなども用いられて、すさまじい迫力です。
個人的には恐ろしく感じましたし、たぶん、自分が幼ければ、泣き出していたかもしれません。
(この後半の描写は、ユーリ・ノルシュタインの初期作品を彷彿とさせます)
最終的には、イングランドの領主は、キリスト教の神に祈りながら敗北していきますが、森の大半は焼き払われ、オオカミにとっての全面勝利ではない結末を迎えます。
イングランド領主の、アイルランド住民無視なども含め、要所要所にアイルランド的価値観が滲みだしています。
ま、そんな歴史的背景などがわからなくても、「この絵が、こう動くのか!」というアニメーションの驚きは充分に感じることができる「傑作」だと感じました。