「僕たちの失敗」私たちの青春、台湾 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
僕たちの失敗
若い女性ドキュメンタリー監督の傅楡(フー・ユー)が2011年に出会った学生運動のリーダー・陳為廷(チェン・ウェイティン)と、台湾の運動に共感を寄せる中国人留学生の人気ブロガー女性・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)を通して、台湾・中国・香港の市民運動の共闘はできるかをテーマとし、2016年まで撮影された作品。
映画も2人の歩みも、2012年の反メディア闘争から2014年のひまわり運動(中国とのサービス貿易協定への反対運動)までは全てが順調だった。傅楡監督も社会運動が世界を変えることができるのではないかと期待に胸を膨らませる。その一方で、輝かしい成功に終わったかに見えたひまわり運動の内部では、陳為廷を含む一部指導者たちが密室会議で運動の方針を決め、それに外部からの参加者が不満の声を挙げる事態が起きていた。陳為廷も、政府の不透明性を批判してきたのに、これでは自分たちも政府と同じだと自嘲する。また運動が盛り上がるにつれて「自分たちは台湾人だ」という台湾ナショナリズムが勃興し、それは運動の大きなエネルギー源になるのだが、中国の全否定にまで過激化していくと中国人留学生の蔡博芸は複雑な表情を見せるようになる。
そして、ひまわり運動の指導者の1人としてスターとなった陳為廷は国会議員に立候補するが、過去に複数の痴漢事件を起こしていたことが発覚し、選挙からの撤退を表明。一方の蔡博芸も留学している大学の学生会長選挙に出馬するが、 反中的世論の中で中国籍という理由で排除され、正当な選挙をできないまま敗北する。2人に期待していた傅楡監督も失意に沈み、未完成のまま映画は放り出される。
そして3年後、2人を呼んで未完成の映画を観てもらい、監督が2人と話した末にたどり着いた思いとは─。
これは傅楡監督自身も言っている通り、“政治の映画”というよりも“青春の映画”だ。陳為廷と蔡博芸、そして監督の傅楡という3人の若者の青春の映画なのだ。これが、ひまわり運動の成功をもって幕を閉じる社会運動の映画だったとしたらあまり面白くなかったかもしれない。彼らの熱情と挫折を描いた青春ドキュメンタリー映画だからこそ優れた映画になったんだろう。良い映画でした。
なお、この映画には後日譚がある。本作は2018年金馬奨の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞したのだが、傅榆監督は受賞の挨拶で感極まって不用意にも自身の考えとは異なる台湾独立と受け取られかねない発言をしてしまい、大問題となって翌年以降は中国映画が金馬奨のノミネートに応募しなくなる。金馬奨の受賞陣容が2019年からショボくなってしまうのはそのためだ。「それを若さゆえの「失敗」というのかもしれないが、授賞式前の彼女はまだ青春の中にあり、授賞式の手痛い経験をもって、青春を終えたとも言えるだろう。」という識者の言葉が胸を打つ。