「難解だけど決してむずかしくはない。」もう終わりにしよう。 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
難解だけど決してむずかしくはない。
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膨大な引用、常識では考えれない構成、混濁する登場人物たちの意識など、確かに一筋縄ではいかない作品だと思う。実際、自分もどこまで理解できているのか、よくわかっていない。
ただ、映画の構成上のトリック的なものは、決してむずかしくはない。序盤のドライブ中に、すでにカップルの男が、女の話が初耳のはずなのに、同じことを思っていたと述懐する。また、女のスマホに、女が呼ばれていた名前から着信が入る。要するに、この時点で、このカップルのアイデンティティの境界が非常に曖昧であることが示唆される。
端的に言えば、このカップルは、ひとりの老人の記憶や妄想を混ぜ合わせてできた心象世界の主人公ということになる。夢に一貫性がないことにも似ていて、彼らの人格にも一貫性はない。ただただ、その老人の記憶や妄想、不安や後悔、未練や執着などが、彼らや男の両親の姿を借りてランダムに表出しているのだ。人間の人生と内面がリニアな時間の流れを無視して描かれているという点では『スローターハウス5』に通じるかも知れない。
トリックだけを追うなら、決して面白い映画ではないかも知れない。しかし、本作にあるネガティブな感情のオンパレードは、極端ではあっても誰にでも覚えがあるもののはず。人間の負の側面を、暗い悲壮感と奇妙なユーモアでもって描いたとてもユニークなアプローチであり、チャンネルさえ合えばとても共感性の高い映画だと思っている。
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