劇場公開日 2022年11月25日

ギレルモ・デル・トロのピノッキオ : 映画評論・批評

2022年12月27日更新

2022年11月25日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

製作15年! 戦争と親子、そしてモンスター愛に溢れたデル・トロ初のミュージカル・アニメ

140年前のイタリアで出版され、これまでに200を超える言語で翻訳された世界的ロングセラー「ピノッキオの冒険」。これをギレルモ・デル・トロマーク・グスタフソンが15年の歳月をかけ、膨大な手間暇と最新技術を駆使したストップモーションアニメ。コッローディの原作を大胆に翻案し、デル・トロ監督初のミュージカル仕立ての作品になっている。

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ファシスト政権が支配する第2次大戦下のイタリア。空襲で息子カルロを失った木彫り職人ゼペット(デビッド・ブラッドリー)は、失意の末に息子に見立てた人形を彫り上げ、哀れに思った木の精霊(ティルダ・スウィントン)はそこに命を吹き込んだ。ゼペットは喜びピノッキオ(グレゴリー・マン)と名付け育てるが、わがままで気まぐれな彼はなかなか言うことをきかない。そしてある日、ヴォルペ伯爵(クリストフ・ワルツ)に騙され彼のサーカスの一員として巡業に出てしまう。ゼペットはコオロギのクリケット(ユアン・マクレガー)とピノッキオを探す旅に出る。

「ピノッキオ」というとディズニーの温かい印象が強いが、原作は主人公を通して暴力や死、社会の不条理が描かれるシビアな内容。ピノッキオが様々なトラブル(狐と猫に縊死させられる!)に見舞われる一因に不登校が上げられ「学校にさえ行っていればなあ」と嘆く場面もある。それは政情不安で国内が混乱していた当時のイタリアで、青少年の犯罪や貧困が社会問題になっていたことをコッローディが憂慮し、児童若年層への教育の普及運動をしていたことに重なる。

そんな原作をデル・トロは大きくヒネってみせる。時代をムッソリーニ(原作の出版年に誕生)政権下に移し「従い戦え」の旗の元、子供に軍事教育を施すのが学校であり、そこは大人たちによって少年兵が量産されている場所として描かれる。「デビルズ・バックボーン」「パンズ・ラビリンス」に続き、子供の眼を通して戦争を捉え、その悲惨さを無垢なピノッキオの姿と対比させた。

映画はそんな現実を写しながらも、監督のモンスター愛は健在。凝りに凝ったセットと小道具の中、デル・トロ過去作のアレやコレがパペット仕様となって次々と登場、そこに監督流の「ありのままでいい」のメッセージが織り込まれる。苦難の末ゼペットと再会するピノッキオの姿は、実際に父親が誘拐され、多額の身代金(友人のジェームズ・キャメロンが立替えた)を支払い取り戻した経験を持つデル・トロ監督だから撮れたのかもしれない。なお、本編とともにメイキング「手彫りの映像、その舞台裏」も配信中、興味の折は併せてご覧下さい。

本田敬

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