「最終的な着地点には不満はあるが、良い点も多いね」日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
最終的な着地点には不満はあるが、良い点も多いね
監督は湯浅政明。
個人的に、いまいちばん注目しているアニメ監督です。
2020年、オリンピック開催が近づく日本。
突如、巨大地震が発生。
次期大会強化選手に選ばれた中学3年生の陸上選手・歩も競技場のロッカー室で仲間とともに被災する。
外に出てみると、周囲の惨状は目を覆うほど。
とにかく、家族が心配・・・と自宅へ向かうが・・・
といったところから始まる物語で、小松左京原作のベストセラー『日本沈没』に基づくアニメ。
これまで、1973年に劇場映画、1974年にテレビドラマ、2006年に再び劇場映画と映像化されているが、そのいずれも科学者・政治家・一般市民の3つの視点で描かれていました(それぞれの視点の軽重はあるものが)。
ですが、今回は、歩を中心とした武藤一家4人が中心で、一般市民の視点から描かれているあたりが興味深いです。
これは、とりもなおさず、東日本大震災を経験していることの影響でしょう。
あの震災を経験していることで、巨大災害に対して、市民ひとりひとりの中に「災害で大切なものを喪うこと」の意味を持っているでしょう。
その千差万別の想いに応える・・・
そういう意味で、作り手側の大きな挑戦、といえる作品だと感じました。
冒頭の巨大地震、被災した家族の再会、その後の進むべき方向の決定、のあたりまでは、かなり生々しいです。
特に、「さあ、これから進んでいこう!」と決意した直後に、一家の大黒柱・サバイバル技術に長けた父親が死んでしまうのはショッキングです。
(というか、ここまでがプロローグのようで、この後にメインタイトルが登場します)
さて、このタイトルの後、映画はすこしずつ様相が変容していきます。
ひとことでいうと、サバイバルアドベンチャー・ロードムーヴィ。
(一言じゃないな、こりゃ)
遺された家族は西へ向かうが、途中、パラグライダーを操る青年ユーチューバーに導かれるようにして、安全な土地を目指していきますが、その途中途中で危機に遭遇します。
山中の道路沿いに一軒だけ助かったスーパーマーケット、富士山の裾野あたりに自分たちの土地を確保して自給自足の集団生活をしている新興宗教集団・・・
そして、その集団の療養棟で発見されるのは、寝たきりでアイコンタクトしか取れない深海艇操舵の科学者・小野寺。
ここで、原作小説の主要人物が登場し、サバイバルアドベンチャーが、科学的SF的世界に融合していきます。
この新興宗教集団との遭遇からSF的世界への突入は賛否あろうかと思いますが、ある種の世界観の転換は、個人的には悪くないと思いました。
その後、日本が完全に沈没する可能性が大であることが示され、そんな絶望的な状況の中から「シズマヌキボウ」は見いだされるのか・・・
1973年版では、日本民族は土地を失っても世界市民として生きていく、との決意が描かれ、2006年版では、沈没させるわけにはいかない、として日本の土建技術力が描かれましたが、本作では・・・
おおお、沈んでも、再び隆起する!
科学的見地から、たしかにありそうな発想です。
そして、日本列島の一部が隆起するならば、一度は土地を失っても、再び集うことができる、と結論付けられています。
(対照的に、国を失っても、自分がいるところが自分の場所、という旧ユーゴ出身の青年が本作では登場します)
個人的には、1973年版の「世界市民」という発想の方が好きで、今回の再集結には、どことなくナショナリズム臭が漂っています。
その再集結がシンボルが「8年後の五輪」というのは、なんだか政治臭がするなぁ、とも感じました。
全10話の連続ものを再編集したので、場所の説明、新興宗教集団の成り立ちなど説明不足の個所があるのは否めませんし、このエピローグの作り方には不満はあるのですが、リアルサバイバルからヒロイックアドベンチャーへと繋がっていく物語は好きなので、それほど悪い評価はしないことにしておきます。