劇場公開日 2021年7月31日

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8時15分 ヒロシマ 父から娘へ : 特集

2021年9月24日更新

被爆2世が米国人スタッフと作り上げた、原爆投下を生き抜いた家族の実話 戦争の傷跡に目を背けず、そして“許す心”を養ってほしい

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話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日9月24日から「8時15分 ヒロシマ 父から娘へ」の先行特別配信がスタートしました。

広島に投下された原子爆弾を至近距離で被爆した父の凄絶な体験をつづった美甘章子(みかもあきこ)氏のノンフィクション「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」を映画化。著者自らエグゼクティブプロデューサーを務め、地獄のような状況にあっても生きることを諦めなかった父の思いと、父から娘へ受け継がれた平和へのメッセージを描く作品で、現在ハリウッド映画化も進行中です。

本作はJ・R・ヘッフェルフィンガー監督をはじめ、米国人スタッフが中心となって製作されました。原爆でのやけどを再現した特殊メイクにはとりわけ力を入れたそう。目を覆いたくなるような描写ではありますが、実際にこのような経験をされた方たちが何万人もいた、という事実を今の日本で平和な日々を生きる私たちは忘れてはならないのです。

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このほど、映画.com編集部スタッフ3人のレビューを紹介。それぞれの視点で作品の感想を語ります。

作品鑑賞後のミーテイングでは「特殊メイクがすごい。本作を一足早く鑑賞した日本での低予算映画ではあのクオリティでは難しかったのでは。ホロコーストを描く映画の新作が毎年が出るように、原爆投下についての新作が毎年作られるようになれば」(駒井編集長)、「日本で作られる原爆のドラマとはテイストが違うのが面白い。51分という尺も何が起きたのか理解するのにちょうど良い長さ」(荒木理絵)、「大学時代に、ナチが原爆を発明して、アメリカが研究することになったと教わった。このように一度使われたことでもう使われなくなったのでは。核兵器は反対です。原爆に関する作品はアメリカであまりないのでハリウッドで映画化されたらもっと見たい」(Dan Knighton)という感想が出ました。

なお、美甘章子さんはインタビューで、「今も世界で戦争やテロでお互いに敵討ちをやっている状況です。国同士の争いというスケールではなくても、家族や友人関係、職場など、被害者になって辛い思いをしている方はたくさんいる。ですからいろんな面で、すべての場所、レベルで自分の心を自由にするため、逆境にあっても生き抜く強さと“許す心”を養ってほしい」とこれから作品を見る方々に呼びかけています。

<美甘章子さんインタビューはこちら>

75年前の広島で何が起きたのか……この映画であなたの目で確認してください。

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映画.com編集部3名によるレビュー

■この一家のファミリーヒストリーは、ホロコーストと同等に語られるべき類のもの

駒井尚文編集長のレビュー

この映画を見て、まず思ったことには「色んな映画の作り方があるんだなぁ」と。そのアイディアに感心しました。

冒頭、主人公の美甘進示(みかもしんじ)に代わって、広島に原爆が落ちる日の模様を回想する俳優が登場します。彼は英語でオーディエンスに語りかける。ここで、この映画は日本人に対してではなく、世界中の人々に向けて作られた映画であることが分かります。また、原爆投下後の壮絶な再現ドラマのシークエンスには、美甘進示役のまた別の俳優が、父親役の俳優とともに出演します。彼らは広島弁を喋っています。もちろん、英語の字幕が添えられて。そして、生前の美甘進示本人(現在は故人)も、映画の終盤に登場します。

場面転換のシークエンスには、現代の美甘章子も何度か顔を出しています。彼女は、主人公美甘進示の娘。この映画の原作の著者であり、この映画のエグゼクティブプロデューサーでもあります。

そうです。この映画は、美甘家のファミリーヒストリーなのです。世界史に深く深く刻まれた出来事、「広島への原爆投下」を現実に経験し、そこから生き延びた美甘進示の物語を、その娘、美甘章子が書籍にし、さらに映画にした、彼女のライフワークの一環でもある。

大変興味深いことに、美甘章子はアメリカに住んでいます。自分の故郷に原爆を落としたかつての敵国に暮らし、スタッフ・キャストも米国内で調達してこの映画を作っている。しかも、アメリカへの恨みなどは微塵も感じさせないどころか、映画のテーマは「許す心」だと言います。

私はこの映画を見て、「何故、ホロコーストの映画が毎年毎年たくさん製作されるのか」ということに思いを馳せました。それは、風化させてはならない、後世に語り継がれて行かなくてはならない出来事だからです。ならば広島、長崎の出来事も、毎年毎年映画になって語り継がれていって欲しい。

本作は、ハリウッドでリメイクされる計画もあるようです。ローバジェットの本作でも十分衝撃的ですから、バジェットが大きくなった暁には、世界がより大きな衝撃を受けることになるでしょう。それでも、「許す心」がテーマであるという点は変わらないはずですから、大衆が受ける感慨はどれほどのものになるか。完成がとても楽しみです。

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■世界で初めて投下された原子爆弾を経験した人々が生きている間に、問題を提起する作品

編集部スタッフ、Dan Knightonのレビュー

As we enter the final quarter of the century following World War II, the memory of the world’s most deadly and destructive war risks fading into the perception of a remotely distant human era. Regarding the war, perhaps the only reflex in most of the younger generations’ minds is that it’s the reason we live for an optimally peaceful and globalized world now. For some reason, we don’t like to talk about is that as a result of that war there are thousands of ready-to-launch nuclear warheads pointing in all directions all over the world. 8:15 is the latest documentary about the Hiroshima bombing that brings this issue to the modern eye while the voices of those who experienced the first atomic bombing on civilians are still with us.

8:15 is produced by Akiko Mikamo, a Japanese psychologist who lives in the US, and child to two Hiroshima survivors. The film is based on a book she wrote, published in 2019, and directed by New Yorker J.R. Heffelfinger. Eddy Tory Ohno plays Mikamo’s father Shinji in a one-act memoir, a living room storytelling illustrated with flashbacks of his fateful day in Hiroshima, where Ohno again plays Mikamo’s grandfather. The film makes the most out of its shoestring budget, orchestrating a sense of style that’s hard to ignore the director’s Brooklyn taste and roots. The (hopefully self-aware) limitations of the green screen effects beg the viewer to lean into their imaginations and put more focus on the quality of the actors, but the make-up work is fairly good.

With all this the film is a sort of hybrid of indie documentary and classroom teaching material, and probably would be a welcome installation at any museum exhibit (Take note the Hiroshima Peace Museum is currently closed). Shinji’s English narration is probably meant for Western viewers, but Japanese audiences might enjoy the actorly televised nature of Shinji and his father’s bonding juxtaposed to nuclear aftermath. Audiences with longer attention spans would be well-equipped to explore this subject further in Shohei Imamura’s Black Rain.

レビュー抄訳
 第2次世界大戦という最も破壊的な戦争の記憶は今、遠い過去のものとなりつつあり、その認識が薄らぐ危険を孕んでいる。現在、若い世代の意識は、平和でグローバル化した世界の持続に懸命になっているが、この戦争がもたらし、現在世界中に存在する何千もの核兵器についてはあまり話題にはならない。「8時15分 ヒロシマ 父から娘へ」は、広島への原子爆弾投下についての最新映画であり、世界で初めて民間に投下された原子爆弾を経験した人々が生きている間に、この問題を提起する。

映画は回顧録の形で、進示を演じるエディ・大野・トオルが、家族に話すように語り、広島での運命を決める日を描く回想シーンでは進示の父が登場する。監督は少ない予算をできるだけ活かし、ブルックリンのルーツやセンスを感じさせるスタイルで演出する。クロマキー合成を用いた特撮は観客の想像力を掻き立て、俳優の演技に集中させるような効果をもたらしている。特殊メイクアップのクオリティーもなかなか高い。

作品はインディー・ドキュメンタリーと教材のハイブリッドのような形なので、博物館などでの上映に適しているだろう。進示の英語のナレーションは国際的な観客に向けたものであり、日本の観客は原爆の体験を再現する俳優の演技に見入るだろう。このテーマをより深く知りたい人には、次に今村昌平の「黒い雨」の鑑賞を勧めたい。

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■子を持つひとりの親として突き付けられた、父の揺るぎない行動

編集部スタッフ、和田隆のレビュー

本人の証言で綴る壮絶な体験と無駄なものを排して再現した映像からは、やはりフィクションドラマにはないリアルが伝わってきました。私がまず心を揺さぶられたのが、美甘章子さんの被爆した祖父と父親(美甘進示さん)のシーンです。

爆風で吹き飛んだ我が家の下敷きになった進示さんを祖父が助け出します。ひん死の重傷を負い、広島の地獄のような光景を目にして、何度も「生きる」ことを諦めそうになる進示さんに、祖父は「生きる」という望みを捨てたら駄目だと言い聞かせます。自らも重傷を負っているのに、親として息子を生かそうとするその強い意志に胸が締め付けられました。

戦後生まれの平和な日本に生まれ育った、子を持つひとりの親として、あのような状況下で、自分は同じような揺るぎない行動がとれるかどうか、突き付けられたようでした。

進示さんが奇跡的に生き延びることができたのは、良き人との出会いと助けもあってのことですが、この父親の強い意志と父親に会いたいという思いがなければどうなっていたかわかりません。息子を優先して病院へ送り出した父親の死は、進示さんにとって想像を絶する悲しみであったことでしょう。

しかし、進示さんは戦争孤児となって差別を受けながらも父親の遺志を受け継いで必死に生き、自らも家族を持って子供を育て上げます。進示さんは娘の章子さんに「許すというのは、大変難しいことでしょうね」と語りますが、原爆を落としたものに対して怒りはないというではありませんか。

また“何かを失う時は、何かを得る時だ”と娘に伝えます。このような父・進示さんの生きる姿勢、平和への願いが、今度は章子さんに受け継がれ、原作となるノンフィクションを執筆させます。そして、祖父と父親の「生きる」ことを諦めないという強い意志が、約75年後に映画という形になったことにとても感銘しました。今度はこの映画が平和への願いを語り継いでいくことでしょう。

子は親の生きる姿勢を見て育つのだと改めて思い知らされました。平和な日本も、自然災害やコロナ禍などで、いつ生死を突き付けられるかわからない状況です。自分の娘や息子に伝えられるものをしっかりと持って生きなければならないと強く思いました。

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