「ヒロインの健気な成長を捉える”まなざし”が素晴らしい」いとみち 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒロインの健気な成長を捉える”まなざし”が素晴らしい
三味線を抱えた女子高生がメイドカフェでバイトする。それはそれで惹きのあるビジュアルであるものの、本作はそれにも増して、内面へ注がれた魅了的なまなざしを持つ。冒頭の教室での一場面から、ユーモアをにじませた温かなタッチが観客を引き寄せ、自分の思いを言葉にすることが苦手なヒロインが学校から自宅へ移動を続ける、たったそれだけの動線の中にも、瑞々しい感性が星屑のごとく散りばめられている。「自分には何も取り柄がない」とはこの年頃なら誰もが持つ悩みだが、そういった思いに固執せず、環境に刺激を受けてヴィヴィッドに変わっていけるのも思春期ならでは。昨日の自分にさよならと手を振るみたいに、日々、一歩一歩、前に進んでいく成長ぶりがなんとも胸を打つ。決して技巧に走らずナチュラルに紡いでいく演出ぶり、さすがにうまい。あと、主人公の純朴な魅力もさることながら、豊川悦司の飄々とした父親っぷりも実に見応えたっぷりである。
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